本書の著者である大友氏はリクルートでトップセールスとして活躍した人物でもある。大友氏は、「リクルートを超える、従業員満足度ナンバーワンの会社を創ろう」という冨田氏の熱い思いに共感して、2005年にディップに参画。その後今日まで、同社の快進撃を、COOそしてCHOとして支えてきた(2019年以降は同社常勤監査役)。

 CHOはChief Human Officer、つまり最高人事責任者である。もっとも社員からは、そのほとばしるような情熱から「C(超)H(ホットな)O(おじさん)」と呼ばれていたらしい。その大友氏の眼からみて、ディップ急成長の原動力は、「人が全て、人が財産」という冨田氏の経営哲学にあるという。それこそが、本書のタイトルでもあるディップのフィロソフィー経営の根幹である。

夢×アイデア×情熱

 ディップという社名は、「夢(dream)」と「アイデア(idea)」と情熱(passion)」を掛け合わせたものだ。多くのスタートアップ同様、冨田氏には起業当時、カネもなくモノもなかった。あるのは起業家としての思いだけだ。それを冨田氏は、この3要素に因数分解してみせたのである。

 この3要素は、稲盛和夫氏(京セラ創業者)と永守重信氏(日本電産創業者)という現代の日本を代表する2大経営者の経営哲学と見事に符合している。稲盛氏も永守氏も、<考え方×能力×熱意>こそが、成功の方程式であると異口同音に語る。筆者はこのような経営思想を「盛守モデル」と呼んでいる。詳細は拙著『稲盛と永守』をご参照願いたい。

 この「考え方」にあたるのが、ディップにおける「夢(dream)」だ。稲盛氏は「大義」と呼び、永守氏は「夢」そして「志」と呼ぶ。そう、これこそがパーパス(志)の源泉である。

 そして「能力」にあたるのが、ディップにおける「アイデア(idea)」だ。稲盛氏は「未来進行形の能力」と呼び、他の2つがあればいくらでも育成できるという。永守氏も夢を形にする能力は、知性(IQ)ではなく感性(EQ)によって10倍以上に膨らむと説く。

 盛守経営における「熱意」は、まさにディップにおける「情熱(passion)」そのものである。永守氏は「情熱・熱意・執念」を永守3大精神の筆頭に掲げている。ちなみに、残りの2つは「知的ハードワーキング」と「すぐやる、必ずやる、出来るまでやる」だ。(第二回につづく)