相続税調査の進化に備えよ!「AI活用」構想で楽になる人と困る人写真はイメージです Photo:PIXTA

国税庁が発表した文書によると、税務行政のデジタル・トランスフォーメーション(DX)に向けた計画が進められています。税務調査にAI・データ分析が活用される構想も示されていますが、未来の相続税調査はどうなるのでしょうか。(元国税専門官 小林義崇)

相続税調査は「過去の情報」が命

 国税庁が行う相続税調査は、他の税目の調査と違う特徴があります。

 それは、たとえ数十年前の情報であっても、重要なヒントになるという点です。調査対象の年度を中心に調べられる所得税や法人税と比べ、相続税は調査で着目される時間軸が長くなるのです。

 この違いは、課税標準の違いから来るものです。所得税や法人税は、基本的に1年間の取引で得た所得が課税標準となりますが、相続税では、「相続開始時点の課税遺産総額」(以下「課税価格」)を基準に税額が算定されます。

 そして、申告された課税価格が正しいかを確認するには、「被相続人がどのようにして財産を形成してきたか」を調べる必要があります。例えば、「亡くなる5年前に保険金を1億円受け取っていた」「10年前に親から生前贈与を受けていた」といった過去の情報があれば、相続税調査の重要なヒントになります。

 もうひとつの相続税の特徴が、「情報を持っている人がいない」というものです。相続税の申告をする時点で、情報を一番持っているはずの被相続人は亡くなっています。そのため、相続税申告を行う相続人にとっても、相続財産を100%把握するのは困難です。

 このような理由から、相続税調査には、検証すべき時間軸が長く、相続人に聞き取り調査を行っても十分な情報が得られないという難しさがあります。したがって、相続税調査が行われたとしても、税務当局が十分な情報を把握できずに課税漏れが起きるケースがあり得るのです。

 しかし、こうした状況に税務当局は手をこまねいているわけではありません。今後は、税務行政のDXによって、相続税調査を取り巻く状況が変わることが見込まれます。両親や祖父母の所有していた財産の情報をAIが分析し、相続財産の申告漏れを発見するような未来が来ようとしているのです。