五輪会場だけが非日常
「パラレルワールドに迷い込んだよう」

 日本で開催されていながら、ほとんどの日本人はテレビの画面越しでしか見ることができなかった今回のオリンピック。実際に会場に足を運び、その目で競技を見届けたゴンチャシさんにどう感じたかを聞いてみた。

 誤解がないように前置きしておくと、彼は有観客にすべきだったとか、規制を緩めるべきだったなどと言っているわけではない。通常とは異なる環境で実施されたオリンピックで、シンプルに自分が感じたことを述べてもらった。

 大会全般の印象としてゴンチャシさんは、“スポーツの祭典”に特化していたと感じたという。通常のオリンピックは会場周辺でのイベント開催やスポンサーブースの出展など、エンターテインメント性のあるイベントの要素もあるが、今回はそれらがすべて中止になり、淡々とスポーツ競技が執り行われるイベントとなった。

 また、「各会場ではボランティアの多さが目立った」と話す。まさに現地にいた人ならではの感想といえるだろう。

「会場にいるのは選手、大会関係者、メディアなどごく限られた人たちで、施設の9割以上はガラ空きという状態です。そのわりには数多くのボランティアの方たちが配置されているなと感じました。無観客が決定したのが開催直前だったので、そこから新たに適切な人数を見積もったり再配置したりするのが難しかったのかもしれませんね。ボランティアの人たちはとてもよくオーガナイズされていて、そのあたりはさすが日本だと思いました」

 ゴンチャシさんは毎日自宅から競技会場に足を運んだわけだが、「まるでお互いに存在を知らない2つの世界が存在しているようだった」とその日々を振り返る。

 会場では世界トップクラスのアスリートたちが白熱した戦いを繰り広げている。しかし部外者は立ち入ることはできない。一方、会場から一歩外に出ると、そこにはケータイで話しながら歩くサラリーマンなど、オリンピックとは無関係の日常の風景が広がる。

「オリンピックがすぐそこで開催されているムードはゼロ。パラレルワールドに迷い込んだようでちょっと奇妙な感覚でしたね」という。

ゴンチャシ渋谷はゴンチャシさんの拠点でもある Photo by Ren Hurricane

“緊急事態宣言下でのオリンピック”を実感した出来事もあった。ゴンチャシさんは開会式の現地取材は行わず、同時刻には渋谷のスクランブル交差点のあたりにいた。

「午後8時、スクランブル交差点の大型ビジョンは緊急事態宣言のため消灯され、渋谷の街は一気に静かになりました。一方、オリンピックスタジアムでは盛大なセレモニーが開始されているわけです。この2つのことが同時に起こっていると思うと、不思議な感覚にとらわれました」