過去にも繰り返されてきた
「幽霊スキーム」で不正受給

「我々の命を救ってくださるお医者様になんて失礼なことを言うのだ!」と怒りでワナワナと震える方も多いだろうが、持続化給付金の不正受給が後を立たないことからもわかるように、世の中には「もらえるもんはちょっとズルしてでももらったほうが得じゃん」と補助金・助成金制度を悪用するような人が一定数存在する。それは、病院経営者といえども変わらない。

 そこに加えて、歴史の教訓もある。現実には存在しないものを「ある」と虚偽の申告して、国からカネをせしめる、いわば「幽霊スキーム」というのは、かなり古くから報告されている病院経営者の伝統的な不正テクニックなのだ。

●『“幽霊看護婦”で水増し報酬 1年半で5000万円 「悪質」と都カンカン 立ち入り検査へ』(読売新聞1975年2月18日)
●『安田系3病院 “幽霊医師・職員”168人 大阪府が「保険医療」取り消しへ』(同上1997年5月20日)
●『医療界の黙認(幽霊医師 診療報酬不正請求:上)』(朝日新聞西部本社版 2000年5月26日)

 これらの不正に登場する「幽霊」とは、要は「水増し」のことだ。診療報酬をより高く請求できるように、医師や看護師の人員数を粉飾する。ちなみに、医師の水増しの場合、大学医学部の大学院生や研修医が「名義貸し」をするスタイルも多かった。

 もちろん、このような不正は発覚後、さまざまな再発防止策がなされたので、近年になるとかなり減少している。しかし、手を替え、品を替え今もひっそりと似たようなことが続けられている可能性は高い。

 例えば、2012年に約23億円と当時で過去最大規模の診療報酬不正受給が発覚した愛知県の医療法人が用いた幽霊看護師スキームは、「看護師の配置が手厚い病棟では入院料が高くなる制度を悪用、看護師の数を水増しし請求していた」(日本経済新聞2012年3月21日)というものである。

 いかがだろう。今回の「幽霊病床」と微妙に被って見えないか。それも当然で、「幽霊病床」が仮に不正であるとすれば、これは「即応病床の水増し」によって補助金を不正受給しているということだ。制度が異なるだけで、これまでの数多とあった診療報酬不正受給とフォーマットはそれほど変わらないのだ。

 さらに筆者が「幽霊病床」に不正の匂いを感じてしまうのは、これがコロナ禍のはるか以前から、日本に医療崩壊を引き起こしかねないと指摘されていた、ある構造的な問題と根っこの部分で同じということが大きい。

 それは、「なんちゃって急性期病床」だ。