日立 最強グループの真贋#4

日本の産業界では、7大企業グループ(三菱、三井、住友、トヨタ自動車、NTT、ソフトバンク、日立製作所)などが、主要業種に中核企業を持つことで大きな経済圏を築いている。近年、トヨタとNTT、三菱商事とNTTがデジタル分野で提携するなど大企業同士でのタッグが相次いでおり、経済圏がさらに広がる動きが目立つ。約220兆円の経済圏と連結子会社865社を有する日立グループはどう出るのか。特集『日立 最強グループの真贋』の#4では、日立グループの反撃模様をレポートする。(ダイヤモンド編集部副編集長 浅島亮子)

EV急旋回でトヨタ250兆円経済圏は大打撃
「レガシー企業」の事業転換は難しい

「一部の政治家からは、全てEV(電気自動車)にすればよいとか、製造業は時代遅れだという声を聞くことがあるが、それは違う」

 9月9日、日本自動車工業会会長を務める豊田章男・トヨタ自動車社長が、日本政府の脱炭素方針に対して痛烈な批判を展開した。

 この発言には、トヨタが置かれている難しい立場や豊田社長の苦悩が端的に現れている。

 すでに日本政府は、2030年度までに温暖化ガスを13年度比で46%削減する大方針を打ち出している。このハードルを越えるには、自動車産業はガソリン車からEVを主軸とする電動車へのシフトが急務となる。

 豊田社長とて、ガソリン車を「大量生産・大量販売」するビジネスモデルが、未来永劫にわたって繁栄し続けるとは思っていないだろう。お家芸である「原価低減」を武器に、日本から海外へ輸出する加工貿易モデルも、コスト競争力と地政学リスクの観点から臨界点を迎えつつある。

 明らかに、旧来の製造業モデルには崩壊の足音が近づいている。当然のことながら、トヨタも電動化を含めた新領域への投資を加速させている。それでも、トヨタのような「レガシー企業」が事業構造を転換させるのは、一筋縄ではいかない。ガソリン車時代に築いた雇用・設備・生産技術など、あらゆるレガシーを入れ替えて組織の新陳代謝を図るには、“時間稼ぎ”が必要なのだ。

 EVシフトは、欧州・中国勢、そして最近では米国までもが、ガソリン車やハイブリッド車に強い日本(の自動車産業)を“仮想敵国”に据えて仕掛けた壮大なるゲームチェンジである。

 日本の自動車産業は550万人の雇用を抱えている。拙速なEVシフトはトヨタを頂点とする国内自動車産業に壊滅的なインパクトをもたらすことになるのは確実だ。だからこそ、トヨタという巨大レガシー企業の転身は極めて難度の高い一大プロジェクトといえる。

 251.1兆円――。これは、トヨタやそのグループ中核企業と取引のある国内企業(仕入れ先・販売先・出資先企業)の売上高の総額だ。つまり、国内における「トヨタ経済圏」の市場規模を意味する。信用調査会社の東京商工リサーチの協力を得て、ダイヤモンド編集部が算出したものだ(データの詳細については後述)。

 さすが、日本一のリーディングカンパニーだけあって、その経済圏は巨大だ。仕入れ先企業6064社、販売先企業2578社、出資先企業609社であり、そこに関わる従業員数は約360万人に及ぶ。

 トヨタがつぶれることがあろうものなら、日本経済が甚大な影響を受けることは一目瞭然だ。

 ダイヤモンド編集部では、トヨタを筆頭に日本経済をけん引する七大企業グループ(トヨタ、日立製作所グループ、NTTグループ、三菱グループ、三井グループ、住友グループ、ソフトバンクグループ)をピックアップし、それぞれの経済圏を算出した。

 以下では、残り六つの企業グループの経済圏を明らかにすると共に、トヨタと並び“製造業日本代表”である日立グループの実像に迫った。

 各グループにおける“企業連携のあり方”で比較すると、日立こそ、トヨタ以上に国内製造業の「最後のとりで」といえる実情があらわになってきた。