補助金や助成金の詐取は
証拠が残るので逃げ切れない

 公務員ではないが今年1月、プロ野球南海(現ソフトバンク)で歴代最多の監督通算1773勝を誇る故・鶴岡一人氏の孫で慶応大4年の男が逮捕された。自身は虚偽申請していなかったが、複数の人物に手口を指南して報酬を受け取り、関与した不正受給額は1000万円を超えるとされる。野球部に所属し捕手として活躍したが、卒業を待たず退学に追い込まれた。

 元巡査部長以外は20代で、いずれも「ちょっとした出来心」だったかもしれないが、前科が付く。再就職もままならないだろう。

 故・鶴岡監督の孫は動機に「起業のため金が欲しかった」と供述しているが、そんな不正を働く人物と取引する企業などないだろう。元巡査部長は予定していた退職金を失い、妻を裏切っていたことも発覚したわけだから、いまごろ修羅場に違いない。

 実は、国や自治体が支給する補助金や助成金を詐取する事件は少なくない。筆者が全国紙記者時代、詐欺事件を手掛ける捜査幹部や捜査員が口をそろえていたのは「知人などを騙(だま)すのではなく、公金だから後ろめたさがない」「公金詐取には申請書という絶対的な『証拠』が残る。疑われて調べられればすぐばれる」ということだった。

 持続化給付金制度はコロナ禍を受けた経済対策で、緊急性から中小企業へのスピード支給を優先。申請方法や事前審査が甘い「性善説」の制度で、不正が相次いだと指摘されている。事態を重く見た経産省は調査に着手、全国の警察による摘発も相次ぎ、不正受給者から返還の相談が押し寄せている状況だ。

 経産省によると9月現在、返還の申し出件数は2万件近く、うち返還済みは1万4000件余(150億円余)に上る。昨年11月末時点では約9000件の申告があり、うち約4700件(約50億円)が返還された。前述した事件の発覚が年末や年明けで大きく報道されたこともあってか、今年に入って急増したのが見て取れる。

 経産省はホームページ(HP)で「現在、持続化給付金及び家賃支援給付金の不正受給案件の調査を行っております。不正受給は絶対に許しません」と警告。「自主的な返還希望の申出の様式・提出方法」を公表し、相談・受け付けについて、コールセンターでも受け付けている。またHPでは「誤って受給された方へ。速やかにご返還ください」と呼び掛け、遠回しに「正直に申告すれば許してあげますよ」というスタンスのようだ。