アベノミクスを超えようとする高市候補
PB凍結は画期的、コロナ対策も現実的

 次に出馬表明をしたのは高市候補。その政策は体系的かつ詳細にわたる。中心軸となっているのが、大規模な財政支出である。

 これまでであれば、とにかく財政再建が叫ばれ、むしろ「無駄の排除」と称した歳出削減が主軸であった。機動的な財政政策を2本目の矢としたアベノミクスでさえ、比較的規模の大きな財政支出を行ったのは初年度のみ。高市候補はその反省を踏まえてということなのだろうが、アベノミクスを超える点が2つある。

 一つは物価安定目標、すなわちインフレ率の目標である2%が達成されるまでは、「金科玉条」であったプライマリーバランス(PB)黒字化目標を凍結するとしたこと。達成時期が延期されることはあったが、凍結としたのはこれが初めてであり、極めて画期的である。

 なぜなら、このPB黒字化、税収だけで国の財政を賄おうという、貨幣観や財政観を完全に間違えた目標であり、主要国でこんな目標を設定しているのは日本だけである。税収だけで賄おうということなれば、当然のことながら景気が悪く税収が減少すれば財政歳出も減らすということになるし、景気に影響を受けにくい税源を確保しようということになる。

 実際には、必要な事業には必要最小限の国債を発行しているのだが、これが日本の緊縮財政と消費増税という、成長を阻害し、デフレを長期化させ、貧国化させる元凶の一つとなっている。高市候補はその元凶に斬り込もうというわけだ。

 高市候補が提唱する大規模な財政支出の中身は、危機管理投資と成長投資に分類される。前者は、技術開発や人材育成、サービス開発、重要物資の調達、国内で生産、創薬力の強化といったものから、防衛、インテリジェンス、海上、警察、消防、保険などの拡充、自然災害の激甚化を踏まえた耐震化、送電通信網の強靭化、土木技術の研究開発、河川流域全体、市街地全体を再設計するグリーンインフラ等まで、起こりうるさまざまなリスクによる影響を最小化するものを対象としている。

 後者は、日本に強みのある分野を強化、戦略的支援、国際展開に向けた支援、産学官におけるAI活用、中小企業デジタル化、ロボット活用、通信関係の消費電力の増加に対応した省電力化と電力確保、電力の安定確保、小型核融合炉開発の国家プロジェクトとしての応援、国産量子コンピューターなど幅広い分野にわたる。

 コロナ対策については、重症者・死亡者数の極少化、自宅療養者数の減少を重視して重点的に取り組む、早めに治療薬を投与できる環境整備、場所の範囲の拡大、さまざまな公的施設の活用、搬送・移送を厚労省のシステムを活用した円滑化、ワクチン接種の円滑化、その他必要な予防対策、治療薬の国内生産体制の構築など、極めて現実的である。

 加えて、前述の大規模な財政支出とは別に、経営状態が悪化している事業者への支援などのための補正予算を早急に編成したいとしている。

 こうした方向性、措置は、今や先進各国では当たり前になっており、英国コーンウォールで開かれたサミットのコミュニケにおいても確認されている。つまり、世界的な潮流に乗った政策群であるということである。サミットに出席し、そのことを理解しているはずであるにもかかわらず、オリンピックに心を奪われて、この真逆のPB黒字化目標を骨太の方針に書き込んだ菅首相とは大違いである。

 また、国防や安全保障政策についても、中国海警局への対抗のための海上保安庁法改正、防衛技術開発、アフガンでの活動の限界を踏まえた自衛隊法の改正、衛星と海底ケーブルの防御など、現実的な政策を提唱している。