日本は「真剣に受け止めていない」
政府系の中国研究者が警告

 中国が「TPP加盟申請」を発表する直前、日本政府に警鐘を鳴らす論文が発表されていた。

「中国のCPTPP参加意思表明の背景に関する考察」(9月11日)と題して、独立行政法人経済産業研究所(RIETI)の政策レポートに載った40ページの論文だ。

「中国側の本気度とTPP枠組みを主導した日米の受け止め方には落差がある」と冒頭から問題を提起。「TPP枠組みの要求する内容は中国の体制と矛盾する項目が多いと考えられているため、実現の可能性が極めて低いアクションであるという予見があり、真剣に受け止めていない印象がある」と、政府のゆるい姿勢に疑問符を投げかけた。

 RIETIは経産省の外郭団体、筆者は中国経済を専門とする渡辺真理子学習院大教授ら4人で、TPP参加へと動く中国の真意や問題点を分析している。

 習近平主席が昨年11月、「TPP加盟を積極的に検討する」と表明したとき、政府もメディアも半信半疑だった。

「閉鎖的で統制だらけの中国がTPPに加入するのは難しい」「日米主導で進むアジアでの貿易や投資の枠組み作りに揺さぶりをかけているのだろう」という見方が支配的だった。

 RIETI論文は、こうした見方を退け、「オバマ大統領がTPP12の締結に動き始めると、中国は独自のイニシアティブをスタートすると同時に、米国の動きに沿うような調整も行う、二面作戦に出ていた」と指摘。

 TPPに対して入念な準備作業を進めてきた中国の取り組みを紹介している。

アジア太平洋の自由貿易圏作り
外圧テコに国内改革目指す

「独自のイニシアティブ」とは一帯一路構想だ。中央アジア・中東から欧州へと進む膨張政策である。

 そしてもう一つの「米国の動きに沿うような調整」は、自由貿易・開放経済への対応だ。

 中国が国内の市場開放に応ずるだけでは受け身になる。外に乗り出してアジア太平洋に自由貿易圏(FTAAP)を作り、共存共栄を図り中国が中核的役割を担う、という戦略だ。

 周小川・前中国人民銀行総裁ら経済改革派がこの路線を進めてきた、という。国際ルールを受け入れ、外圧をテコにして旧態依然の国内制度を変革するという狙いもあるようだ。