スターリンクが民主主義を広める日

 だからこそ、権力者は情報統制に熱心だ。独裁国家側もスターリンクの影響を黙って見ているはずがない。習近平への個人崇拝を推し進める中国は、テスラにとって売り上げの約3分の1を占める大切な市場でもある。

イーロン・マスクの新事業「スターリンク」が習近平の悩みの種になりかねないワケ筆者・竹内一正氏の近著『TECHNOKING イーロン・マスク 奇跡を呼び込む光速経営』(朝日新聞出版)

 その中国で、「スターリンクは中国共産党にとっての脅威だ」と中国政府がもし判断すれば、「スターリンクサービスをすぐに停止しろ。言うことが聞けないなら、テスラ車の中国国内の販売を禁止する」という脅しをテスラのCEOでもあるイーロン・マスクにかけてくることも大ありだ。そのとき、彼はどうするか?

 実際にプーチンが永世支配をもくろむロシアでは、既にスターリンクを利用した個人および法人に罰金を科す法案が、ロシアの国家院(下院)に提出された。それによると、スターリンクを利用した場合の罰金は、個人ユーザーは1万ルーブルから3万ルーブル(約1万5000円から4万5000円)、法人の場合だと最大で100万ルーブル(約150万円)という(レートは9月27日現在)。

「スターリンクの価値は810億ドル(約8兆9100億円、レートは9月27日現在)」とモルガン・スタンレーが高い評価を付けたように、ビジネスとして大きな可能性を秘めるスターリンクだが、独裁国家を揺さぶり、民主主義を広めるパワーが内包されていることも知っておくべきだ。

 スターリンクの躍進を目の当たりにし、アマゾンの創業者ジェフ・ベゾスがヤキモキしているが、スターリンクを一番気にしているのは、習近平とプーチンと金正恩なのかもしれない。

(経営コンサルタント 竹内一正)