イーロン・マスクの新事業「スターリンク」が習近平の悩みの種になりかねないワケPhoto:123RF

宇宙開発企業スペースXの衛星インターネット事業「スターリンク」について、世間はネットアクセスが難しい山間部や過疎地での利用に注目しがちだ。しかし、言論統制を敷く中国やロシアなど独裁国家に、ネット民主主義を広めるパワーがあることをスターリンク側は秘めている。『TECHNOKING イーロン・マスク 奇跡を呼び込む光速経営』の著者、竹内一正氏が、スターリンクの可能性について従来にない視点から解き明かしていく。

宇宙からインターネットを展開する「スターリンク」

 スペースXの「スターリンク」は、高度約550㎞の地球低軌道に約1万2000基の通信衛星を自社ロケット「ファルコン9」で打ち上げて、世界中のどこでも高速インターネットが使えるようにする壮大な事業だ。

 2020年8月に米国北部でベータ版サービスを開始したスターリンクは通信速度が50Mbpsで、接続機器の初期費用が499ドル、月額料金は99ドルに設定されている。

 スターリンクは、通信インフラを構築しようにも採算が合わずインターネット基地局がない山間部や、へき地などでの利用はもちろんのことだが、地震・台風などの大規模災害で基地局がダメになり、ネットやスマホが使えなくなる事態への救済策としても期待が集まっている。イーロン・マスク率いるスペースXは、ファルコン9で60基といった大量のスターリンク衛星を一度に打ち上げることができるのでコスト削減に効果的であり、他社にない強みとなっている。

 ところで、ネット通信速度が50Mbpsで月額約1万円と聞くと、「高いなぁ」と思う人も多いだろう。だがそれはネット接続が可能で、複数のプロバイダーから選べる“都会”の話であって、ネットにつながらない人たちにとってはこの金額でも恩恵が大きいサービスだ。

 最終的には約4万2000基になる壮大な計画のスターリンクは、100億ドル(約1兆1000億円)を超える巨額投資が必要となる。現在のスターリンク利用者数は約7万人で14カ国に広がり、衛星は約1500基が稼働している。先般は日本のKDDIがスペースXと提携し、衛星インターネット事業の実証実験を9月に開始すると発表があったばかりだ。