2兆円超を投じ、海外で大型買収を進めたアサヒグループホールディングス。5年前、わずか8%にすぎなかった事業利益の海外比率は70%超に急拡大した。指揮するのは、日立製作所出身という業界では異色の経歴を持つ朴泰民取締役だ。アサヒの海外戦略のキーマンは「これが最終形ではない」とさらなる野心を見せる。特集『ビール蒸発』(全8回)の#7では、朴氏が海外戦略の要諦を明らかにした。(ダイヤモンド編集部 山本興陽)
海外の売上比率「5年後に6割にも」
高利益率を支える「プレミアム化」戦略
――アサヒグループホールディングスは巨額買収で海外事業を急拡大させました。各エリアの足元の状況は。(本特集#6『日本を捨てるアサヒと捨てられないキリン、海外戦略でビール2強に明暗』参照)
アサヒにとって主要な海外拠点は、欧州と豪州です。この二つの地域は日本よりも回復のスピードが速く、2022年にはコロナ禍前の19年と同じ水準に売り上げと利益が戻るとみています。
ほかには、中国や東南アジアで事業を展開していますが、まだ規模は大きくない。米国も長くやっていますけれど、これもそこまでは大きくない。アサヒは、ビールで「スーパードライ」やイタリアの「ペローニ」など良いブランドを持っています。ほかの地域にもそれらを広げていきます。
――海外事業の売り上げや利益は伸びています。具体的な目標はありますか。
現在、売上収益全体に占める海外比率は46%、事業利益は65%です(21年12月期中間決算、調整額等考慮後)。売上収益は5年後には6割を超えるぐらいには引き上げていけると考えています。今後もこれらの数字が高まっていく流れは変わりません。
――21年12月期中間決算の事業利益率は、国内酒類事業が約8%であるのに対して、海外事業は約14%です。海外事業の利益率が高い要因は。
主因は独自の「プレミアム化」戦略です。単に商品の単価を上げるのではなく、高価格帯商品の構成比を高めることで利益率を引き上げています。
加えて、買収したどの国の事業も極めてシェアが高いのも要因の一つです。ビールの商品構成では、価格的に「スタンダード」から「プレミアム」までを押さえています。しかも、スタンダードの事業基盤が強いので、ノンアルコールビールなどビール以外の利益が高い商品も販売できます。
豪州では業務用の比率が2割、家庭用が8割です。コロナで飲食店向けの需要が消えても8割という大きな市場を持つので、業務用の打撃も吸収できてしまう。豪州も含め、そもそもシェアトップなので、仮に業務用が減少しても家庭用で補えてしまいます。
――16年ごろから、欧州と豪州で合計2兆円超もの大型買収を進めました。さらなる買収はあり得ますか。