「コロナ前に戻ることはない」。飲食店でのビール消費の回復は絶望視される。だが、ビールメーカーの社内を見ると、その厳しい環境とは真逆の風景が広がる。飲食店向けの営業体制は一向に変わっていないのだ。変化に対応できないビール各社が抱える問題とは。特集『ビール蒸発』(全8回)の#2では、業務用の営業マンが危機下でも安泰でいられる組織構造に迫った。(ダイヤモンド編集部 山本興陽)
「やることない」ビール大手の営業マン
飲食店向け需要は2~3割減が続く
「うちの飲食店向けの業務用営業部隊は、『やることがない。早く帰宅できるし、酒を飲む機会も減ったから、すっかり健康になったよ』とぼやいていた」。大手ビールメーカーの現役社員はこう言って苦笑いする。
新型コロナウイルスの感染拡大で、外食産業は壊滅的な打撃を受けた。その強力な余波は飲食店にビールを供給するメーカーにも及んでいる。
「飲食店向けのビール需要は、コロナ前には戻らず、2~3割が消えたままだ」。これがビール業界の現状の共通認識だ。
10月に緊急事態宣言は解除されたものの、メーカーにとって金城湯池だった「業務用市場」の先行きに明るい兆しは見えない。
顧客である外食企業が「脱ビール」を模索する動きも出始めた。居酒屋大手、ワタミの渡邉美樹会長兼社長は、「居酒屋の市場は、7割までしか戻らない」と繰り返す。
すでに同社はテークアウト主体の唐揚げ店を展開するなど、脱ビールのビジネスモデルにかじを切り始めている。
“蒸発”した業務用のビール市場。この非常事態に、ビールメーカーには社内リソースの見直しが突き付けられる。
まず思い付くのは、業務用市場を担当する営業マンを、コロナ禍で需要が急拡大するスーパーやコンビニといった、小売店向けの家庭用の部署にシフトさせる案である。
この業務用営業マンの再活用術は、キリンホールディングスの磯崎功典社長も肯定的だ。
キリンは健康事業を新たな成長の柱に掲げている。そうした領域に業務用営業マンをはじめ、社内のリソースの再配置に前向きな方針を示しており、「やったことがない人間でも、教育をすればできる」と磯崎社長は強調する。
しかし、である。ある大手ビールメーカーの社員によれば、業務用営業マンの配置転換は実は限定的な動きだという。しかも、これは大手ビールメーカーに共通するというのだ。
なぜ、非常事態にもかかわらず、業務用営業マンは安泰でいられるのか。背景には、ビールメーカーが抱える旧態依然の組織構造が横たわる。