農協の大悪党#9Photo:Yoshiyoshi Hirokawa/gettyimages

JAグループ京都を26年以上にわたって牛耳っている中川泰宏は、政府による農協改革に真っ向から反対し、改革を主導した自民党農林部会長の小泉進次郎や農水省次官の奥原正明(いずれも当時)と対峙した。連載『農協の大悪党 野中広務を倒した男』の#9では、中川らJAグループ京都幹部が農協改革を骨抜きにしようとするだけでなく、奥原の解任まで画策していた証拠を明らかにする。(ダイヤモンド編集部 千本木啓文)

農水省元幹部に接待攻勢で
現役次官に平身低頭させる主従関係結ぶ

 2014年のJA全中(全国農業協同組合中央会)の解体決定から始まった政府の農協改革において、中川泰宏はJAグループの守旧派のボスとして自民党農林部会長の小泉進次郎や農水省次官の奥原正明(16年までは同省経営局長)と正面からぶつかった。

 中川は小泉の父、純一郎から一本釣りされて衆院議員になった「小泉チルドレン」だったこともあり、息子の進次郎には多少の配慮が見られたが、奥原に対しては遠慮がなかった。

 例えば、小泉進次郎が自民党農林部会長として16年10月、大阪市で農協関係者らとの意見交換会を開いた際、中川は会場(JA大阪センタービル)の最前列、小泉の目前に陣取り奥原への批判を展開した。

「農協の指導しかしたことのない(奥原)事務次官は、農協からしか農業を見ていない。彼が、皆さん(自民党を代表して説明会に出席した小泉や元農相の西川公也ら)に教えていることは間違っている。(中略)全く農業を知らない、農協を通じて(改革を)やる人だけに(農業政策の立案を)頼らないでほしい。このままではこの国がつぶれる。農協からしか(農業を)見たことがない人が、農協やJA全農をつぶしますなどと脅して頑張っている。農水省のいろんな部署で働いた人(農協担当部署以外での勤務経験がある人という意味だとみられる)に聞いて改革をしてほしい。それだったら一切逆らわない。今の状況は駄目だ。こんなばかなことはあり得ない」

 国民的な人気を誇った小泉を向こうに回してなかなかの大演説である(ちなみに、中川は農協幹部を集めた翌17年の講演でも「あの人(奥原)は農協しか知らん。もともと(農協を担当する)経営局にしかおらへんやさかいに農協から見た農業を考えとるねん」と述べているが、奥原は食糧庁計画課長、大臣官房秘書課長、水産庁漁政部長、消費・安全局長など経営局以外の仕事も経験している)。

 中川は、守旧派のボスとして小泉に物申した自分に酔っている節がある。前出の講演で以下のように語っている。

「週刊誌に最近また名前がよく出始めまして、一番改革に反対する男、小泉進次郎さんと大阪の会議で厳しく議論しましたら、『(中川は)抵抗勢力』だと新聞や週刊誌に書かれました。また、全国の(農協組織の)役員選挙は小泉進次郎対中川泰宏の代理戦争やとまで最近書かれております」

 そしてこの講演でも奥原への批判は忘れなかった。

「私は、奥原事務次官がやっとる改革には大反対の一人であります。(中略)奥原さんは(首相)官邸の言う通り、走り回っとんのや。自分が事務次官になれたから。これが大きな間違いやねん。でも私は、奥原さんアカンけど、アカンからとじっとしとったら先につぶされる。こっちから攻めていく。こっちから戦いに挑んでいく」

 何とも不穏な物言いだが、「こっちから攻めていく」という発言は政府から命令される前に先手を打って農協を改革するという文脈で出ており、暴力を振るうという意味ではない。

 ところが、JAグループ京都は奥原を退任に追い込むために水面下で「弱点」探しを行っていた。

 以下では、JAグループ京都のナンバー2で「ミニ中川」と称されるJA京都中央会専務の牧克昌と農水省元幹部との、奥原を巡る耳を疑うような密談の中身をお伝えする。