例えば、結果として10億円を持つ資産家である架空のAさんとBさんについて考えてみよう。共に勤労所得はゼロで、現在年金で暮らしているが、Aさんは10億円を銀行の普通預金に置いていて、Bさんは8億円で株式投資を行った結果2億円の収益を得て現在資産10億円となった。

 共に資産額ベースの経済的負担力は同じだが、Bさんの2億円の収益には、現行の税率で約20%、4000万円の税金が課される。Bさんは、自らリスクを取って株式で運用したのであって、経済倫理的に悪いことをしたわけではない。まして、「貯蓄から投資へ」(後に「貯蓄から資産形成へ」)というフレーズを掲げて金融庁は長年、国民に対して資産形成のための投資を普及しようとしてきた。

 現下の金融環境で金融所得課税を強化することは、リスクを取った投資を抑制する効果がある。そして税率の引き上げは、この効果を拡大してリスク資産への投資に対してネガティブな影響を持つ。やめた方がいい。

金融からの所得ではなく
「資産」をベースにした課税が適切

 預金と株式を中立的に扱うなら、金融からの「所得」ではなく「資産」をベースにした課税を考えるといい。超富裕層を正確にターゲットにできるし、預金に課税すれば実質的にマイナス金利になるので、デフレ対策にもなる。

 もちろん、同じ資産でも不動産に対する課税とどうバランスを取るかとか、預金から現金へのシフトによる節税をどう防ぐか(電子マネーが決済の主流になれば電子マネーへの課税は容易だ)、といった問題があるので制度設計は簡単ではなかろう。しかし、「特定の所得」よりも「資産」をベースに課税する方がフェアではないか。

 一方、立憲民主党は、金融所得課税の見直しに積極的であるように見えるが、彼らも今一度考え直すといいのではなかろうか。

 なお、自民党総裁選を振り返ってみると、「分配」を強調し、「資本主義の見直し」を訴えた岸田氏は、まるでかつての民主党の党首のようであった。さすがに、消費税率を下げるとは言わなかったが、「消費税は10年上げない」と言っていた方向性にも「民主党臭」を感じた。