来秋には習近平氏が中国共産党総書記として3選を決め、長期政権を揺るぎないものにすることができる。「6年」もあれば、軍事力と経済力で、前を行くアメリカとの距離を縮め、逆転可能な状況を作り出しているかもしれない。

 筆者は、台湾の防空識別圏に中国の戦闘機が28機も侵入した6月、安倍政権で2度、防衛相を務めた小野寺五典氏を自民党本部に訪ねた。

 小野寺氏は、デービッドソン氏について、「大言壮語を発するような人物ではない。彼の情報分析力は極めて高い」と述べた上で、「台湾有事を想定するなら、自衛隊は近海でアメリカなどとの合同演習を繰り返すだけでは不十分。実際に台湾に行き、中国軍のサイバー攻撃や上陸作戦などに備えた訓練を重ねる必要がある。現状ではそれができていない」と懸念を示した。さらに、尖閣諸島の防衛にも新たな法整備が必要になると述べた。

 先のマクマスター氏の発言に戻れば、中国は、香港における民主派弾圧後も、国際社会からの制裁を免れたことに味をしめ、強引に台湾を統一したとしても孤立を招かないと考えている可能性があると分析した。

 マクマスター氏はさらに、2014年、ロシアがソチ冬季オリンピック後にウクライナ南部のクリミア半島を手に入れたように、中国もオリンピック後に台湾統一へ乗り出す可能性を指摘している。

 筆者個人の考えでは、マクマスター氏の見立てよりもデービッドソン氏の予測のほうが現実的だと思う。台湾国防部の報告書もデービッドソン氏の予測に近い。

 とはいえ、先に触れた習近平氏の演説内容なども考慮すれば、台湾有事や尖閣諸島有事がそう遠くない日に起こる危険性は高まっていると言っていい。

習近平氏を突き動かす
「恥辱の100年」の歴史

 その危険性を読み解くヒントが「勿忘国恥」である。

「勿忘国恥」とは、「国の恥を忘れるな」という意味で、中国を海洋進出へと駆り立てる根幹ともいえるものだ。

 中国は1840年の第1次アヘン戦争でイギリスに敗れて香港を奪われた。1894年の日清戦争では日本に敗れ、台湾、澎湖諸島、遼東半島の割譲を余儀なくされた。

 その後も、1900年の義和団の乱、1931年の満州事変、さらに1937年の日中戦争で辛酸をなめ、蒋介石による中華民国(台湾)設立という祖国の分裂まで招いた。