こうして見ると、第1次アヘン戦争からの100年余りは、中国からすれば、日本など諸外国にじゅうりんされ外交的にも敗北を繰り返した恥辱に満ちた時代だったということができる。

 中国共産党100周年記念式典での演説や国連での演説など、習近平氏の演説を聞けば、「断固、勝利する」や「断固、阻止する」といったように「断固」という言葉が何度も出てくる。

 これは、列強による「恥辱の100年」の雪辱を果たし、奪われた領土や領海を自分の代で取り戻し、アメリカが主導してきた国際秩序を、中国の手で塗り替えようとする決意にほかならない。だからこそ、日本にとって外交安全保障政策が重要になるのである。

日中首脳の電話会談が
早期に実現した背景

 10月8日、就任後初の所信表明演説に臨んだ岸田首相は、「我が国の領土、領海、領空、そして、国民の生命と財産を断固として守り抜きます」と、習近平氏ばりに「断固」という言葉を使って宣言した。海上保安能力やミサイル防衛能力などの強化にも触れ、併せて経済安全保障の重要性にも言及し、演説後には習近平氏との電話会談も行った。

 今後の日中関係については、両国の出方次第では、アメリカと中国の関係以上に「政冷経熱(政治は冷却しているが、経済は過熱している)」の状態に陥るリスクがある。

 台湾や尖閣諸島をめぐる情勢が緊迫化し、政治的に冷ややかな関係になっても、実体経済は中国との熱い関係がなければ成り立たない。岸田首相としては、就任早々に習近平氏と会談することによって、自らが長所と称する「聞く力」で協力関係を築き、同時に、言うべきことはきちんと「言う力」も国民に向けてアピールしたかったのだろう。

 一方の中国側から見ても、アメリカとの関係がバイデン大統領による予想以上の中国包囲網によって悪化する中、日本との関係は少なくとも現状維持でいきたいとの思いはあるはずだ。それが早期の電話会談に至った背景ではないだろうか。

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 そんな中、アメリカは、同盟国の日本が台湾や尖閣諸島有事に備え、今後、どのような対策を講じていくのか注視している。安倍政権時代に平和安全法制を作り、自衛隊の活動内容を広げることまでは可能にしたものの、それだけでは心もとない。

 ハト派と言われてきた岸田首相がどこまでやれるのか、それ以前に衆議院選挙以降、「フミオ・キシダ」の求心力がどうなるのかに注目している。

 このような点からも今回の衆議院選挙は重要な選挙になる。筆者は、各政党や候補者が語る外交安全保障政策に耳を傾け、どの政党や候補者が平和な暮らしを守ってくれるのか、中国の動きを抑止できそうかという視点も交えて一票を投じたいと思う。

(政治・教育ジャーナリスト、大妻女子大学非常勤講師 清水克彦)