「われわれはまだ、真の企業理論というべきものも、総合的な経営学というべきものも持ち合わせていない。しかしわれわれは、企業とは何であり、その基本的な機能が何であるかは知っている」(ドラッカー名著集(13)『マネジメント─課題、責任、実践』[上])
1980年、米国の中堅証券会社エドワード・ジョーンズ社のトップ、ジョン・バックマンは、ドラッカーに手紙を書いた。何通も書いた。「全社を挙げて心酔しており、コンサルティングをお願いしたい」。
「とにかく立派な会社にしたかった。そこへドラッカーの『マネジメント』に出会った。社内の皆が、これが目指す会社だと言った」
ドラッカーの『マネジメント』とは、54年の名著『現代の経営』において、企業の目的は「顧客の創造」であると断じて、体系としてのマネジメントを確立し、ついにはマネジメントの父とされるに至ったドラッカーが、その後20年の企業研究の成果を注ぎ込んだマネジメントの百科全書ともいうべき大著である。
バックマンは、その大辞典のごときものを読んで、感激して手紙を書いたのだという。
ビジネススクールの教授たちは、スキルとしてのマネジメント手法は精緻化できても、体系としてのマネジメントは提示しえていない。しかし、まず経営に必要とされるものは、スキルとしてのマネジメントではなく、体系としてのマネジメントのほうである。その体系としてのマネジメントの集大成に成功したのがドラッカーだった。
そのため、経営の道に入って、道に迷った者には、ドラッカーが直接の助けとなる。ドラッカーに感激し、経営の醍醐味に感激する。
ドラッカーは、「実はわれわれは、企業とは何であり、その基本的な機能が何であるかを知っている」と言う。したがって、ドラッカーが行なっていることは、そのわれわれ全員がすでに知っていることの再確認だけである。
だから読者は、ドラッカーは自分のために書いてくれたと確信する。大著『マネジメント』は無機質な百科全書ではなかった。一気に読み下すことのできる1000ページだった。「われわれの次の世代の課題は、個人、コミュニティ、社会のために組織を役立たせることである。それがマネジメントの役割である」(『マネジメント』[上])。