「新しい区庁舎に福祉事務所を入れるかどうか」といった個別事案について、区民が一つ一つ投票を行うわけではない。一方で、区議たちは区議会で質疑や討論を行うことができる。それでは、住民の声を届ける場所はどこにあるのだろうか。

 国政や地方自治において重要な出来事が決定される際には、国民や住民から「パブリック・コメント」を募集することが多い。寄せられたパブリック・コメントは、「ご意見は聞きました」というアリバイとしてのみ使用される場合もあるが、利害関係者としての国民や住民が行政に対して、直接、公式に意見を述べられる機会は、他にはほぼない。

 中野区は今回、パブリック・コメントを募集したため、そこで声を上げた中野区民や区外住民がいた。生活困窮者の支援団体や当事者たちは、「生活保護が必要な区民は、美麗な新庁舎の外のどこかへ」という形態そのものを生活保護差別とみなし、反対の声を上げた。また、区職員の労働組合は、区民の利便性や自分たちの働きやすさの観点から意見を述べた。もちろん区議たちは、議会で質疑を行った。

 誰のどの動きが、中野区で「山」を動かしたのだろうか?

 結論を探す前に、経緯を見てみよう。