激しい痛みと
苦しみの末に絶命

 大口病院は当時、内科や整形外科などが専門だったが、入院患者は寝たきりや一般家庭での介護が困難な高齢者のほか、末期がんなど終末期(ターミナルケア)の緩和治療が行われており、久保木被告は患者の自然死に偽装して犯行に及んだとみられる。

 検察側の証拠調べによると、いずれも88歳で高齢の西川さんと八巻さんと違い、興津さんは転倒による右膝のけがが原因で傷口から細菌に感染した可能性があり、抗生物質の点滴が必要という理由で入院していた。

 順調に回復していたため、飼い猫の世話や家事などのため短時間の条件で外出が許可されることもあった。しかし無断外出しようとして久保木被告が連れ戻す出来事があり、検察側は「再び無断外出してけがをすれば自分の責任になる」ため、死亡させようと考えたと指摘した。

 死亡した日、興津さんは点滴の針を刺している周辺ではなく、まったく違う位置の痛みを訴えた。看護師が確認しても異常はなかったため点滴を続けたが、ナースコールで繰り返し痛みを訴え続けた。

 点滴が終わった後、トイレに付き添ったがいつまでも戻らないので見に行ったところ、苦しそうに前のめりになり、壁に手をついていたという。「気持ちが悪い」「頭痛がする」と訴え、便器の中は血尿で真っ赤に染まっていた。

 主治医が駆け付けるも、酸素飽和度が急激に低下。泌尿器科がある系列病院に救急搬送したが「息ができない」「痛い」と顔をゆがめて苦しみ続け、意識を失った。集中治療室(ICU)に移されたが呼吸が停止し、死亡が確認された。

 当初は病死と診断されたが、後に西川さんと八巻さんの不審死が相次いで発覚。既に火葬されていたが、興津さんが強く退院を求めたため死亡直前に検査用として採血していた。この血液から消毒液の成分が検出され、立件につながった。