クレディセゾン会長「社員をルールで縛るのは誤り」と語るたった1つの理由Photo:PIXTA

日本初のサインレス決済やポイントに有効期限のない「永久不滅ポイント」など、イノベーティブな発想と戦略でクレディセゾンを成長させ、2002年にクレジットカード業界のトップへと押し上げたクレディセゾン会長CEOの林野宏さん。毎日のようにスタートアップと面会するなど、そのビジネス感度を常にアップデートし続ける林野さんへの今回の質問は、「社員を管理するためには、規則やガイドラインで縛ることも必要か?」です。果たして林野さんの答えは?(聞き手/ダイヤモンド社編集委員 長谷川幸光)

Q 社員を管理するためには規則やガイドラインで縛ることも必要でしょうか?

規則やガイドラインで社員を縛ると
企業は「お役所化」する

――コロナ禍でリモートワークも増えています。社員を管理するためには、規則やガイドラインで縛ることも必要でしょうか?

 企業の不祥事が続き、コンプライアンス(法令順守)が注目された時期がありました。コンプライアンスの精神を持つことはもちろん、とても大切なことです。

 しかし、規則やガイドラインをつくると、現場の社員はそれらを守ることが目的化してしまいます。「モラルに反しているからやめよう」ではなく、「(規則やガイドラインを根拠にして)難癖をつけられると面倒だ」と無難に処理したり、「なぜいけないのかよくわからないが、ルール違反だからとにかくダメだ」と思考停止に陥ったりしてしまうんですね。

 その結果、ルールを妙に意識しすぎて、会社全体が萎縮してしまいます。管理のための管理が横行して生産性も落ちていきます。企業の「お役所化」です。お役所と違って企業はライバルだらけ。次々と追い抜かれてしまいます。

ANAやJALの社員が
ノジマに出向して驚いたこと

 コロナ禍となり、家電量販店のノジマは、ANAやJALから出向社員を受け入れましたよね。そのとき、出向社員が一番驚いたのが、接客のマニュアルがないこと。「感動接客」と呼ぶ販売手法で、顧客が欲しい商品を一緒に探し、社員がみずから考えて客の要望に応えるコンサル型の接客です。

 一方、航空会社のキャビンアテンダントには、コンプライアンスに基づいた、かなりきっちりとした接客マニュアルがあるわけです。ですから、「え? マニュアルないんですか?」とみなさんとても驚いたようです。

 しかし昔の日本には、そうしたマニュアルは当然、ありませんでした。みんな、見よう見まねとか、OJTなどで、仕事をおぼえていったわけです。本来、一人一人がみずから考えれば、マニュアルなんてなくてもいいはずなのです。

 マニュアルに関して私が一番びっくりしたのは、スマホが登場した頃に、孫さん(ソフトバンクグループ会長兼社長の孫正義氏)にスマートフォンをいただいたとき。解説書がなかったのです。スマホだけをポッと手渡され、「え?」と驚きましたね。

 解説書がなくてもゲームができるし、解説書に書かれた文字を読めなくても操作ができる。これはすごいと。それを見て、操作方法だけでなく、思いつく限りのルールや注記を並べたマニュアルというものは、よくないのではないか、違うのではないかと、そう思ったのです。

 ですから私たちもそこから学び、余計なマニュアルはやめて、つくるとしても、なるべく簡略化したわかりやすいマニュアルにするよう、心がけています。もちろん、金融庁が求める最低限、必要な情報は交付しなければなりませんが、でも形骸化した文化というのは是正していかなければなりませんね。

 冒頭の質問に戻ると、社員を管理するために大切なことはたったひとつです。