特に、コロナ禍でテレワークが主体になったことが、非定型うつ病の症状を悪化させる原因になっているという。

「コロナ禍で当院を受診した非定型うつ患者のなかで、対面であれば、うまく周囲とコミュニケーションをとって仕事をこなせていた人もいます。たとえば、上司から『もう少し考えてから質問しなさい』と注意を促されたとき、対面であれば上司の表情や声のトーンから、『上司は4割くらい怒っている』と想像がしやすいはずです。しかし、メールやオンラインでの情報だけだと、表情や声のトーンなど、相手の感情やニュアンスを想像するための材料が少ない。そのため、相手の状況を適切にイメージすることが苦手な非定型うつ病の人は、『上司は自分のことを拒絶している』と、極端にマイナスな考えに陥り、落ち込んでしまいます。つまり、相手の感情を適切に見積もることが下手なのです」

非定型うつ病の症状を
緩和する思考法

 周囲とのコミュニケーションを苦手と感じる非定型うつ病の人が症状を改善するためには、状況や相手の感情を正しく把握するための材料となる経験を積み重ねていくことが重要だという。

「こう言われたらこういう言葉で返したらいい」という経験を頭のなかでファイリングし、現状や相手の感情を正しく想像する力をトレーニングすると、症状の改善につながっていく。

「相手の感情は、自分が想像して見積もっているよりも、2割5分引いて考える癖をつけるのも有効です。上司が50%怒っているように感じても、実際は25%くらいしか怒っていないかもしれない。どんなに自分が鋭くても、他人の考えや感情を完璧に察することができるとは思わないほうがいいでしょう。その際、カウンセリングや認知行動療法の本などを活用するのも手段の一つです」

 また、コーヒーによる過度なカフェインの摂取や夜ふかしを控えて不摂生を改善するのも、症状の緩和に効果的だという。「マイナスな側面ではなく、今できていることに目を向け、自分自身を認めてあげましょう」と立川氏はアドバイスする。

 そして、非定型うつ病の周囲の人たちも、気遣うべきポイントがある。

「『このくらい言わなくてもわかるよね』と、不十分な情報しか与えないのはNG行為です。

 経験が豊富な人なら、少ない指示でも過去の経験を材料として、状況を正しく把握し対応できます。しかし、若く経験が浅い人には、イマジネーションを構築するための豊富な経験が足りません。相手が十分に考えるための要素を漏れなく、わかりやすく伝えてあげてください」

 非定型うつ病は、周囲との関わり方が症状の程度を左右する。身近にいる人は、非定型うつ病患者が十分に想像できるように配慮することも重要なのだ。

(監修/心療内科・精神科 パークサイド日比谷クリニック院長 立川秀樹)

【監修】立川秀樹氏 心療内科・精神科 パークサイド日比谷クリニック院長
筑波大学医学部卒業、同大学院博士課程修了。産業医を経て2007年より現職。著書に『「こころの病気」から自分を守る処方せん:こころの健康を取り戻すために』など。