中国の資産家たちが最初に目を付けたアンティークコインは、20世紀初頭から第2次世界大戦前までに造られた自国の通貨だ。投資の受け皿となったことで、中国のアンティークコインの価格はまたたく間に急騰し、2000年代前半はおよそ3万円で取引されていた銘柄が、500万円近くまで膨れ上がる事態に。そこで次なる投資対象として白羽の矢が立ったのが、日本の円銀だった。

「円銀は残存枚数が比較的多く、状態の良いものも豊富に残っており、デザイン性も優れているため、チャイナマネーの新たな受け皿として格好の的となりました。元々円銀を保有していた国内のコイン投資家にとっては喜ばしい事態ですが、中には投資目的ではなく、純粋なコレクターとして円銀を収集している人もいます。彼らからすれば、円銀価格の高騰は収集のハードルが上がることを意味するので、今の状況は望ましくはないでしょう」

平成発行の1円玉で
5000円の価値が付くものも

 田中氏によると、コインの価値は、(1)残存枚数、(2)状態の良さ、(3)デザイン性、(4)発行国の経済的な豊かさ、の4つのポイントで決まるという。

「コインの価値を決める要素に『古さ』は関係ありません。100年以内に発行された比較的新しい硬貨であっても、残存枚数が10枚しかなく、デザインがカッコよくて完全未使用品である場合などは、条件次第で価格は急騰します。一方、はるか紀元前に製造された通貨であっても、大量に残存している場合、価格はそれほど跳ね上がりません。実際、古代ギリシャで使われていた『テトラドラクマ銀貨』は20万円ほどで買えますが、それよりもずっと新しい、1927年に中華民国の開国を祝して発行された1ドル銀貨は、状態の良いものであれば、30万円以上の値が付けられます。また、資産家は往々にして自国のアンティークコインから買い集めるので、豊かな国の通貨であればあるほど、高い値が付けられる傾向にあるのです」

 コインの価値を決める要素に「古さ」が関係ないのだとしたら、普段使っているお財布や貯金箱の中に、希少価値のあるレア硬貨が眠っている可能性もあるのではないか。

「確かに、2011~13年に発行された1円玉などは他の年に比べて発行枚数が少ないため、中には1枚5000円で取引されるケースもあります。しかし、それはあくまで完全未使用である場合です。コインは非常に繊細ですから、素手で触れただけで微細な傷がつき、その時点で大した値は付きません」

 残念ながら、1円玉に限らず、我々の財布や貯金箱に入っている硬貨が大金に化ける可能性は著しく低いようだ。それでも今の勢いのまま市場が拡大していけば、アンティークコインが投資対象としてより身近なものとなる日は近いのかもしれない。