さらに、種子は水に弱いという性質があります。日本では、採種時期と梅雨が重なることも多く、品質の高い種子を大量に生産するためには不向きな気候です。しかも、温暖で雨が多く湿度が高いため病気になる可能性も高く、台風や豪雨などの災害や天候不順が起こりやすい日本は、種子の大量生産は適していないのです。

 一般的に「作物は原産地に似た気候で育てた方が良質な種子ができる」といわれているので、大根、レタス、トマトなどの西洋野菜の種子は、海外産が多くなります。

 今の日本は、非常に多くの品種の野菜が当たり前のように販売されています。これだけ多くの野菜の種子を生産することは、日本では不可能に近いでしょう。

 二つ目は、人材と労力と費用です。

 日本では1961年、農業の近代化・合理化を目指すために農業基本法が制定されて以降、農産物、特に野菜の大量生産・大量流通が加速されました。そのため農業も、種子生産と作物生産との分業化が進みました。自家採種をせず、種子を購入するようになってから、すでに60年が経過しています。

 野菜栽培農家の人たちで、種子生産をしたことがある人は、地域で伝統野菜を守っている人たちに限られています。有機栽培も、あくまで栽培の基準なので、種子が輸入か国産か、自家採種かどうかは関係ありません。おそらく輸入種子を購入している方が多いでしょう。

 今の日本では、自家採種をしている、あるいはしたことがあるという経験者が少なく、種まきから苗の育成、栽培、収穫、選別までの種子生産のノウハウを持っている人材を集めるのは容易ではありません。

 採種用の土地と人材および労力と資金を用意し、通常の野菜栽培と並行して、雨を避けて温室で品質の高い種を生産したとしても、それに見合うだけの売り上げと利益を確保することは、日本では難しいのです。