農家が自家採種しない
もう一つの理由

 経済成長に伴い大量生産・大量流通に適した野菜の需要が高まりました。そこで登場したのが、品種改良されて生まれたF1種です。F1種は、早く成長し収量が安定し、重さや形がそろっているので、大量販売には適しています。しかも、短期間で必ず(100%)発芽する品質の高い種子なので、瞬く間に市場を席巻してしまいました。

 異なる性質の親を交配してできたF1種は、両親のどちらよりも優れた性質を持ちますが、性質が受け継がれるのは1代限り(メンデルの法則)なので、農家は必ずまたF1の種子を購入しなければなりません。

 そのため、農家は種子生産することなく、その都度種子を購入して栽培をするというサイクルが出来上がってしまったのです。

種子の輸入先は
チリが3分の1

 農水省は「天候によって収穫量が大きく左右されるので、輸入先を北半球と南半球に分けることや、できるだけ多くの国で種子生産をすることで、天候不良のリスクを分散させている」という方針を示しています。

 ところが、輸入相手国のトップは南米のチリで、輸入総額163億円の内33.7%、2番目が米国の10.7%、3番目がイタリアの10.2%、続いて中国8.6%、デンマーク5.1%、南アフリカ共和国5.1%、タイ4.2%、ニュージーランド4.0%、韓国3.1%、豪州3.1%となっています(2020年実績)。

 リスク分散のためにできるだけ多くの国で種子生産をしているといっても、チリ1カ国で全体の3分の1を占めており、チリ頼みというのが実態です。

 また、世界の種子会社は、大規模化、寡占化が顕著です。モンサント(親会社はバイエル)、シンジェンタ(親会社・ケムチャイナ)、ビルモランの3大会社で、約50%のシェアを持っています。

 日本の種子会社の「サカタのタネ」と「タキイ種苗」は、それぞれ5%程度のシェアです。少ないながらも、日本の会社が海外で種子生産をしていることは非常に心強いですが、地球温暖化が進み世界の人口も急増しています。

 地球規模で考えれば、食の安全保障は大きな危機に直面しています。もしも輸出国が異常気象で、洪水や干ばつが発生した時に、日本に輸出する種子が足りないという事態が起きないとも限りません。

 1999年公布・施行された「食料・農業・農村基本法」では、「国内の農業生産の増大を図ることを基本とし、これと輸入及び備蓄を適切に組み合わせ、食料の安定的な供給を確保し、凶作や輸入の途絶等の不測の事態が生じた場合にも、国民が最低限必要とする食料の供給を確保する(抜粋)」としています。

 種子が供給できなければ食料は確保できません。食料安保のためにも、種子の国産比率を10%から20%に、さらには50%を目標にしてほしいものです。

(消費者問題研究所代表 垣田達哉)