まずは、
「すごい利き手につくりこむ」のが大切
山本:加藤先生のところには、こうした相談はありますか?
加藤:ありますが、あえて聞かないと気付かないんですよ。それは、左利きのせいだったのかと。
山本:たしかに。私も母親から、「そういえば昔、こんな話さなくなっちゃったんだよね」、という話を、この年齢になって初めて聞きました。だから多分、全国の左利きの親御さんも、どこか言うに言えなかったり、気付かなかったりがあるのでしょうね。潜在的な問題なんですかね。
加藤:左利きのせいで、うまくしゃべれてないことに親御さんや周囲の人が全く気付いてないという意味で、今回の対談はすごく意義があるかなと。私の脳画像診断外来では、最初から右利きか左利きか調べてから、患者さんと接しているんです。そこで初めて、もともとしゃべらないのは内向的なんだ、などがわかります。
山本:性格の問題だと。
加藤:はい。性格の問題もあれば、意外に左利きの矯正とリンクしていたりして、そういう左利きの矯正とのリンクも、医学的には重要なエビデンスだと思います。
山本:脳科学的に、矯正しないほうがいい時期はあるのでしょうか?
加藤:意味合い的には、脳の成長、発達から見ていると、利き手はいつ決まるのという話ですね。
確かに、1歳半を過ぎても利き手が決まらない子どもたちもいるんですね。右利き、左利きが決まらない子たちを見ていると、やっぱり言語発達が遅くなる。全体の成長が遅い傾向があります。
つまり、特定の場所をまず進化させたほうが、脳としては脳の中のネットワークの基点をつくりやすいわけですよね。特に体を動かすのは最もプリミティブなことで、体を動かすことで脳の発達が始まっているから、まず利き手を作るのは脳の成長としては非常に重要です。
だからその脳発達の最中に、左手を使いたいのに右手にしようとすると、実は運動系脳番地以外の7つの脳番地も上手に使えないことが起こってくるんですね。
だから私は、左利きなら左利き、右利きなら右利き、しっかり「すごい利き手」につくりこむことが、すごく大事だと思いますよ。その上で、プラスアルファとして、利き手と反対の手を使おうというのは、すごくいいのかなと思いますね。
山本:それは、この子は左なのか右なのかと利き手がしっかり固まって、矯正するなら、その後ということですよね。
加藤:そうだと思います。
山本:決まってない段階で、私みたいに0歳で1歳で、何となくこの子左利きかなと、そういう迷ってる段階で矯正すると、言語で困ったりすると。それがずっと続けば、あまり良くないでしょうね。加えて、左利きなのか右利きなのか決まるのも、その子によって違うから、0歳や1歳など、矯正のタイミングは一概にも言えないってことなんですね。
加藤:そうですね。できれば、やっぱり右脳と左脳の発達が対照的な発達パターンになりやすい10歳の時期を超えて、あるいはその前後辺りまでは、すごい利き手に訓練したほうがいいんじゃないでしょうか。
山本:なるほど、矯正する年齢も難しいですね…。ただ、私は左利きとなりましたが、人生を振り返れば左利きで良かったなと思う瞬間は少なくないです。親御さんはそこまで矯正にシビアにならなくてもよいのではないかなと思っています。
左利きの脳内科医、医学博士。加藤プラチナクリニック院長。
株式会社脳の学校代表。昭和大学客員教授。
発達脳科学・MRI脳画像診断の専門家。脳番地トレーニングの提唱者。
14歳のときに「脳を鍛える方法」を求めて医学部への進学を決意。1991年、現在、世界700ヵ所以上の施設で使われる脳活動計測fNIRS(エフニルス)法を発見。1995年から2001年まで米ミネソタ大学放射線科でアルツハイマー病やMRI脳画像の研究に従事。ADHD(注意欠陥多動性障害)、コミュニケーション障害など発達障害と関係する「海馬回旋遅滞症」を発見。帰国後は、独自開発した加藤式MRI脳画像診断法を用いて、子どもから超高齢者まで1万人以上を診断、治療を行う。「脳番地」「脳習慣」「脳貯金」など多数の造語を生み出す。InterFM 897「脳活性ラジオ Dr.加藤 脳の学校」のパーソナリティーを務め、著書には、『脳の強化書』(あさ出版)、『部屋も頭もスッキリする!片づけ脳』(自由国民社)、『脳とココロのしくみ入門』(朝日新聞出版)、『ADHDコンプレックスのための“脳番地トレーニング”』(大和出版)、『大人の発達障害』(白秋社)など多数。
・加藤プラチナクリニック公式サイト https://www.nobanchi.com
・脳の学校公式サイト https://www.nonogakko.com
ダイヤモンド社18年新卒入社。ダイヤモンド編集部の記者で「ダイヤモンド・オンライン」や「週刊ダイヤモンド」に記事を執筆。幼少期に右利きへの矯正で話さなくなったことがある。現在は左利きでおしゃべり。