アフターコロナに向けて
鉄道以外の収益源確保が課題

 ただ今回の決算を左右したのは特別利益と営業外利益だ。東急、京急は固定資産の売却益、小田急は固定資産と投資有価証券の売却益、近鉄GHDはグループ会社の子会社化により生じた負ののれん益(純資産より低い金額で買収した際に生じる利益)を特別利益として計上(詳しくはhttps://diamond.jp/articles/-/280019?page=3参照)。また営業外利益では、近鉄GHDが約56億円、名鉄が約30億円、西鉄が約10億円の雇用調整助成金を交付されており、これが経営の下支えとなっている。

 そうした意味では、今回の黒字化は持続的なものとは言えない。だが大手私鉄は2000年代以降、都心回帰を背景に鉄道事業で大きな利益を手にしていたが、歴史を振り返れば平成初期までは鉄道事業はトントンで、不動産や流通、レジャー部門で利益を上げるビジネスモデルであった。

 これは物価が上昇する中、許認可事項である鉄道運賃の改定が追い付かなかったことが影響している。しかし低金利・デフレ時代が到来したことで消費税の増税を除いてほぼ運賃値上げをする必要がなくなり、また同時に都心回帰によって運輸収入が増加したため鉄道事業の収支は一気に改善し、空前の黒字を記録し続けてきた。

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 だが、今後は事情が変わってくる。前述のようにテレワークが普及したことでコロナ禍が収束しても、定期利用者は回復しないとの見方が強い。また将来的には人口減少により利用者の減少は避けられない。

 東急が2023年度に運賃を値上げする意向を示しているように、今後は収支の改善を目的とした運賃改定が続くと思われるが、それにより鉄道事業が黒字転換したとしても、かつてのような利益は望むべくもない。

 今後もグループの中心としての鉄道事業の位置づけは揺るがないが、鉄道以外の収益源、しかもこれまでのような百貨店やレジャーではない新たなビジネスモデルをいかに構築できるかが、アフターコロナを生き残る大きなカギとなるだろう。