当然、捕虜を収容するような用意もない。人員的な余裕も食料もない。かといって解放したらどうなるかわからない。そこで、殺してしまったというケースがかなりあった。

 多くの民間人を殺した、殺さないでいまだに議論になっている「南京事件」でも、日本軍が1万人以上の捕虜を1カ所に集めて殺した、ということが当時の兵士たちの日記などから確認されている。当時の軍資料を見ても、膨大な数の捕虜の食料に困った、という記述が見つかっている。

日本人・外国人双方の改善を!「第二の敗戦」を避けて

 このような悲しい歴史から我々が学ぶべき教訓はひとつ、日本人は自分たちの待遇を、外国人にも押し付ける。それが劣悪なものならば、なおさらということだ。

 自分たちが我慢している待遇、組織から受けるハラスメント、精神論などを、文化や言葉が違う外国人にも「日本のルールに従え」と押し付けてしまう。そして、それができないと心身両面で追いつめて、最悪、命を奪ってしまう。

 そういうことが太平洋戦争では山ほど起きた。そして、戦争で敗れた後、そのツケを「東京裁判」で払わされた。愛国心あふれる方たちからすれば、あれは敗戦国が理不尽な裁きを受けたという印象だが、実は捕虜を処刑したり、人道的に扱わなかったりという「人道に対する罪」もかなり確認されたからだ。

 日本人労働者の待遇改善なき「外国人労働者拡大」も同じことが起きる恐れもある。つまり、中国や東南アジアの新興国などに経済的にもどんどん抜かれるという「敗戦」を喫した後、さらに追い討ちをかけるように、外国人労働者を常軌を逸した低賃金で働かせたり、ブラック企業で苦しめた、という「人道に対する罪」を持ち出され、国際社会で批判を浴びるのだ。

 今のまま外国人労働者拡大を進めたら、また同じ過ちの繰り返しである。岸田首相はぜひこの「亡国の政策」を思いとどまるよう、賢明な判断をお願いしたい。

(ノンフィクションライター 窪田順生)