半導体メモリー大手のキオクシアホールディングス(旧東芝メモリホールディングス)は、昨年見送った新規株式公開(IPO)を年内に実行する方向で調整中です。米中分断による経済安全保障上の不安定さやパソコン関連の巣ごもり特需が一段落と見る向きもある中、同社の将来性についてどのような点に留意すればよいのでしょうか。外部環境分析の王道、PEST分析から考察します。(グロービス ファカルティ本部テクノベートFGナレッジリーダー 八尾麻理)
キオクシア上場延期から1年
「外部環境」の変化を読む
キオクシアホールディングス(以下キオクシア)は、不正会計問題で経営危機にあった東芝から稼ぎ頭の半導体メモリー事業を分社化し、米ベインキャピタルが主導する企業連合の出資によって設立された「東芝メモリホールディングス」を社名変更して、2019年10月に誕生しました。
同社は、スマートフォンやデータセンターなどさまざまな製品へ搭載する記憶用半導体「NAND型フラッシュメモリ」を主力製品とし、同製品の2020年度世界シェアでは、1位のサムスン電子が34%、同社は19%で2位に付けています。
設立当初から将来の上場が期待されていたキオクシア。一度は予定していた新規株式公開(IPO)を昨年9月に延期しました。背景には、先述の米中貿易摩擦による市場環境の変化などがあります(詳しくは後述)。その後、回復基調となるも、21年3月期決算は最終赤字脱却には至らず、迎えた22年3月期第1四半期決算では販売数量・単価がともに伸びて、ようやく純利益123億円の黒字確保となりました。引き続きデータセンター向けの需要が好調なことや5G対応スマートフォンの拡大を背景に、同社は今年後半にかけて需要回復の傾向が続くとみています。このため、同社は延期していた上場計画を年内に進める方針です。
株式公開とは、プロフェッショナルな投資家に閉じていた資金調達を、株式市場を通して一般の投資家からも広く行うためのものです。この”一般の投資家”から見て魅力的な企業であり、収益性や持続的な成長が望める市場と見えるかどうかは、直近の事業環境に負うところが大きいのでしょう。上場を控える企業は、一般投資家のリスク許容度を見極めながら、彼らの需要を喚起できるだけの環境変化を味方に付ける必要があります。
では、企業固有の事業計画や資本政策とは別に、一般投資家はどんな情報を参考にその企業の将来的な魅力を見定めるのがよいのでしょうか。
重要なポイントの一つが、企業を取り巻く外部環境の変化を押さえることです。本稿では、そうした世の中の潮流をマクロ的にとらえる王道ともいえる「PEST分析」を用いて読み解いてみましょう。