現在の物価上昇は一時的現象だと主張する人々はしばしば、サービス分野で価格があまり上昇していないことを指摘する。サービス分野のインフレが比較的抑制されていることは、物価上昇がコロナ禍の不快な後遺症であり、自然に解消されることを示唆しているというのが、「一過性派」エコノミストの見方だ。この論理は強力だ。ロックダウン(都市封鎖)の期間中は、人々の支出がサービスからモノへと明らかにシフトしていたからだ。そこにサプライチェーン(供給網)の問題が加わり、モノの価格を急激に押し上げた。こうした形のインフレは痛みを伴うが、それに関して中央銀行が大きな役割を果たすことはできない。残念なことに、サービス分野のインフレが落ち着いているとの説明には大きな欠陥がある。確かにコロナ流行前からのサービス分野の消費者物価上昇率は年率2.8%のペースにとどまり、この期間の総合的なインフレ率(3.9%)ほど高率になっておらず、それ以前の3年間とほぼ同じだ(過去12カ月のインフレ率はもっと高いが、それは昨年春の物価下落の影響を無視したものなので、筆者は2019年12月以降の数値を採用している)。