9月の自民党総裁選で「国民の生活を守り、国民の所得を増やす3つの政策」を約束すると宣言した岸田氏。新型コロナウイルス対策や外交・安全保障政策に加え、メディアの注目を浴びたのが「令和版『所得倍増計画』」というキーワードだった。

 端的に言えば、岸田氏は分配機能を強化することで中間層を拡大し、国民全体の所得を引き上げるシナリオを描いたものといえる。そして、この政策を進めることが「私の公約である」と言い切っていた。

首相就任後の所信表明演説でも
総選挙でも所得倍増計画は「封印」

 元祖の所得倍増計画は、岸田氏が率いる宏池会を1957年に結成した池田勇人元首相が60年、内閣の目玉として打ち出したものだ。61年から70年までの10年間に実質国民総生産(実質GNP)を倍増させ、所得格差の是正を図ることを目指した成長戦略である。高度成長期の減税、社会資本の充実、社会保障の強化などによって目標を前倒しで達成している。

 長年のデフレ経済に加え、コロナ禍の厳しい生活を強いられている国民が令和版「所得倍増計画」に期待を抱くのは当然だろう。「昨日よりも今日、今日よりも明日はきっと良くなる」と信じることができれば、その希望は日本の活力となっていくに違いない。

 だが、岸田氏は首相就任後初めての所信表明演説でこの計画には触れず、先の総選挙の公約でも「封印」している。

 国家のトップ、最高権力者が「公約」とまで言い切った目玉政策の実現性はどうなったのか。そこで注目されたのが、11月19日に閣議決定された経済対策と、その後の岸田首相の言動だった。

 結論から言えば、経済対策でも首相の言動からも「所得倍増」は消えている。代わりに打ち出された18歳以下の子どもを対象に1人当たり10万円相当を給付する支援策には、自民党内からも「不公平」との批判が噴出した。