また、「公的部門における分配機能の強化等」とうたった賃上げでは、保育職と介護職は収入を3%程度(月額9000円)、看護職は収入を1%程度(月額4000円)引き上げると打ち出した(看護職は「段階的に収入を3%程度引き上げていく」とも言及)。しかし、その決定にも「1%程度の賃上げでは全然足りていない」「あまりにショボい」などと怒りの声が充満している。

所得倍増計画に対する内閣の公式見解
「所得の単なる倍増を企図したものではない」

 国税庁による「民間給与実態統計調査」によれば、民間企業で働く人の平均給与は433万1000円(2020年)と2年連続で減少。平均ボーナス額は64万6000円で前年比8.1%減だ。そこで岸田首相は来年の春闘に向けて経済界に「3%」を超える賃上げを要請するという。「官製春闘」は安倍晋三政権からの慣例だったとはいえ、「これでは今までの政権と同じやり方であり、単なる『要請』は経済政策でもなんでもない。あれだけ言っていた所得倍増計画はどこにいってしまったのか」(全国紙経済部デスク)と厳しい視線が向けられている。

 ちなみに、令和版「所得倍増計画」を真に受けるならば、「所得倍増」には「平均成長率3%」の賃上げで約24年かかる計算だ。

 岸田内閣は10月26日の閣議で、令和版「所得倍増」についての答弁書を決定している。この内閣の公式見解では「平均所得や所得総額の単なる倍増を企図したものではない」といい、今後も具体的な数値目標を盛り込んだ計画を打ち出すことは考えていないとしている。

 前出のインタビュー記事で「もちろん低成長が続く現代において、所得を『2倍』にするのは、現実的とはいえません。ただ、『倍増』というメッセージを打ち出すことで、企業や国民の意識を変えていきたいと考えています」と力説している岸田氏。自らが掲げた「公約」を単なるメッセージにすり替えてしまう宰相には、期待から失望へと意識が変わったという国民の声は届いていないようである。