たとえばヨーロッパからアジアへ向かう場合、従来はスエズ運河を経由する航路がメインルートだったが、北極海ルートを経由すれば航海距離を約3分の2に短縮し、燃料消費量を最大50%削減できるといわれる。当然、物流コストも安くなるから、北極海ルートの利用価値は非常に高い。

 不毛の地どころか、新たな資源と航路を提供してくれそうな北極。この地が経済活動の場として世界の注目を集めるにつれて、大国の紛争の場となる恐れが出てきた。

沿岸8ヵ国に加え中国まで登場!
大国が利権争奪戦を展開

 北極における利権争いの当事国はロシア、アメリカ、カナダ、ノルウェー、デンマーク、アイスランド、スウェーデン、フィンランドの沿岸8ヵ国。これらの国々は1996年に北極評議会をつくり、平和と安定に向けた協力に関する宣言を採択した。しかし、領有権の主張を凍結したり、囲い込みを防いだりする国際的なルールではないため、抜け駆けする国が出てきてもおかしくない状況にあり、実際、「北極争奪戦」といえるような動きも散見される。

 もっとも早くから積極的に動いてきたのはロシアとノルウェーで、資源採掘のためのインフラ整備、港湾整備、砕氷船の開発などを進めてきた。ノルウェーは北極海の一部のバレンツ海で天然ガス事業を展開。ロシアに至っては、2007年の夏に北極点付近の海底、ロモノソフ海嶺に自国の国旗を立てて領有を主張し、物議を醸した。

 中国の動きも見逃せない。中国は北極圏に領土をもっていないが、2004年にノルウェーのスバールバル諸島に北極観測基地、黄河基地を建設。2017年には北極を一周して気象や航路の調査活動を行った。そして2018年には、北極政策をまとめた白書を発表し、北極航路を「氷上のシルクロード」として整備する構想を示したのである。