(上)ニューヨークで開催された「LOOK!キャンペーン」。「LOOK」の2つの“O”が目玉の形になっており、その向きでクルマが来る方向がわかる仕掛け
(下)左が正常な頚椎、右がストレートネックだ。画面の細かな文字を読むことで、首や肩に負担がかかる“スマートフォン症候群”が問題視されている

 2012年8月現在、日本のスマートフォンユーザー数はおよそ2400万人(コムスコア・ジャパン調べ)。これは携帯電話ユーザー全体の23.5%にあたり、昨年末からおよそ43%増加したという。2016年末には普及率が70%を超えるという予測もある。市場の著しい成長を鑑みると、完全にガラケーを凌駕したと言えよう。

 ただし、高速ブラウジングや快適なSNS環境など、その利便性の高さからビジネスユースにも広く使われているスマートフォンだが、ガラケーに比べてコストがかかる。料金プランや運用方法によるものの、スマートフォンのパケット通信料はガラケーのそれよりも割高であり、本体代を含めてもかなりの支出となる。財布へのダメージは無視できない。

 同時に痛いのが首だ。巨大なタッチパネルディスプレイをのぞきこんで操作するスマートフォンは、目の疲れ、肩こりを促進させる。

 “ストレートネック”という症状をご存知だろうか。手もとにスマートフォンがある方は実際にやってみてほしいが、背中を丸め、顔を下に向けて画面を見る姿勢をキープすると、首の前側の筋肉が緊張するのがわかる。頸骨の自然なカーブが失われ、強く圧迫してしまう状態、これがストレートネックである。PC作業を長時間続けていると、首だけ前に突き出す姿勢になっていることはないだろうか。あの状態に近い。

 さらに問題視されているのは“前方不注意”である。片手で操作できることの多かったガラケーとは異なり、スマホの片手操作は手のひらが大きな男性でも難しい。歩行中に使おうとすると、両手が塞がることとなり、目の前の注意が疎かになる。ちゃんと前を向いていれば避けられる事故や危険が多発している。

 今年7月に発表されたAPの記事によると、しっかり前を見ていれば防げる事故──走っている車や歩いている人の前にふらっと飛び出して、衝突事故を招くようなケース――が、この7年で4倍にも増加しているという。

 日本では、自動車の運転中はもちろん、自転車をこぎながら携帯電話を使用することも禁じられている。違反した場合、道交法第71条第6号によって「3ヵ月以下の懲役または5万円以下の罰金」を課せられる。

 ニューヨークでは先日、ユニークなキャンペーンが開催された。「LOOK!」と名付けられた“よそ見防止キャンペーン”は、年間9000件もの交通事故が発生しているニューヨーク中の横断歩道、タクシー、街中の掲示板などを使って、携帯使用の歩行者やよそ見運転の運転手への注意を喚起している。

 たかが“ながら歩き”と言うなかれ。身体を壊し、事故を起こし、お縄を頂戴する可能性だってあるのだ。今後、日本にもこうした注意喚起キャンペーンが増えてくるだろうが、安全性向上につながるかどうかは未知数。携帯端末を操作しながら歩く人のみが通れる、“スマホ専用歩行レーン”ができる日も近いかもしれない。

(筒井健二/5時から作家塾(R)