うに,北三陸ファクトリー画像提供:北三陸ファクトリー

JR東日本に入社後、『ecute』プロジェクトを立ち上げ、「エキナカ」の文化を定着させた鎌田由美子氏。サーキュラーエコノミー(循環型経済)の観点から地域の1次産業を見つめる鎌田氏が、現代人のライフスタイルにおいて大きなポテンシャルを感じているのが「地域の1次産業×サスティナブルなものづくり」です。今回の対話の相手は、岩手県の北三陸、洋野町で水産ベンチャー「北三陸ファクトリー」を創業した下苧坪之典代表。洋野町には世界唯一の「うに牧場」があります。ここでつくり育てられたウニを武器に海外展開を目指すだけでなく、日本の水産業のリブランディングやカーボンニュートラルに関する取り組みを行う下苧坪氏に、水産業の未来についてお聞きしました。後編をお届けします。(構成/ダイヤモンド社編集委員 長谷川幸光)

>>前編から読む

ウニ殻を利用して海藻を再生
ブルーカーボンとして地球環境にも寄与

鎌田由美子氏鎌田由美子(かまだ・ゆみこ)
ONE・GLOCAL代表。1989年、JR東日本入社。2001年、「エキナカビジネス」を手がけ、「ecute」を運営するJR東日本ステーションリテイリング代表取締役社長に就任。その後、JR東日本の本社事業創造本部で「地域再発見プロジェクトチーム」を立ち上げ、地産品の販路拡大や農産品の加工に取り組む。2015年、カルビー上級執行役員就任。2019年、ONE・GLOCALをスタート。近著に『「よそもの」が日本を変える』(日経BP) Photo by Teppei Hori

――前回、「うに牧場」についてお話くださりました。今後は豊かな海藻が茂る「藻場」(もば)の再生も図っていきたいとのことで、今回はそのあたりから詳しく教えていただけないでしょうか。

下苧坪之典氏(以下同) 20年前までは、三陸(おもに青森県八戸市から宮城県石巻市までの海岸線エリア)から北海道にかけて、コンブ、ワカメ、アカモクなどの海藻が、びっしりと生い茂っていました。

 しかし今は磯焼けでほとんどなくなってしまい、生産者の食いぶちをどんどん減らしている状況です。三陸の水産業が消えていく未来がもう見えている。そのため、沿岸域の藻場の再生というのは三陸の水産業にとって喫緊の課題なんです。その課題に向けたソリューションのひとつが、「ウニ殻」の利用です。

――ウニの殻ですか?

 はい。ウニ殻を利用して藻場を再生していこうという取り組みを、今年から始めています。ウニというのは、食べられる部分が2割で、捨てられる部分が8割。殻の部分がすべてゴミになっているんです。これまでは、大量のウニの殻を産業廃棄物としてお金を払って処分していました。

 実はウニの殻というのは、窒素、リン酸、マグネシウムなどの栄養素が多く含まれていて、昔から沿岸地域の畑や果樹園で肥料として使われていました。ただ、こうした「ウニ堆肥」は肥料取締法では「特殊堆肥」(※生産者の経験等によって識別できる簡単な肥料)に分類されるため、売り方が難しくなかなか流通させることができません。

 そのため、殻を粉末化して、天然ゴムと混ぜ合わせ「堆肥ブロック」にして、海の中にまきます。この天然ゴムも水に解ける環境に優しいものです。昨年、北海道の積丹(しゃこたん)町でこの堆肥ブロックを使って実証実験をしたところ、海藻がどんどん増えていったんです。こうした、ウニ殻を利用した藻場の再生活動と、ウニ養殖の事業を連動させる「資源システム」の構築を今、始めたばかりのところです。

――なるほど、実のほうは商品化し、これまで捨てられてきた殻は分解して再資源化するわけですね。捨てるところが一切ない。

下苧坪之典下苧坪之典(したうつぼ・ゆきのり)
1980年岩手県洋野町(旧種市町)生まれ。北三陸ファクトリー代表取締役CEO。大学卒業後、自動車ディーラー、大手生命保険会社を経て、岩手県最北端の港町である洋野町で2010年5月、水産加工品の卸売りを行う「ひろの屋」を創業。2018年10月、ひろの屋の100%子会社である「北三陸ファクトリー」を設立。AERAの「日本を突破する100人」に選出。

 北海道大学や愛媛大学のほか、日清丸紅飼料さん、三菱商事さん、ローソンさんなどとも協力し、こうした資源システムの研究・開発を進めています。たとえばローソンさんが全国で廃棄している野菜などの葉物を粉末化して、肥料に変えていく取り組みも始めています。

 ウニ殻などの廃棄物を肥料にし、藻場を再生して、実入りのいいウニを育てて出荷し、漁師さんの稼ぎをつくる。しかも、コンブやワカメなどの大型海藻はCO2を吸収してくれます。こうしたブルーカーボン(海洋生態系に吸収され固定化される炭素)は、地球温暖化防止に寄与するとして、今非常に注目されていますよね。こうしたサスティナブルな事業というのを国内のみならず、オーストラリアやニュージーランドなど海外でも展開していきたいと考えています。

 ――自然のものが再び自然へと還元されていくよう、テクノロジーを活用して人の手を少し加えることで、自然のサイクルがうまく回っていく。一方で、そのような資源システムを構築する上での課題としては、どういったものがありますか?