京急電鉄Photo:PIXTA

「現場力」に支えられた「超人的」な列車運行で、長らく称賛されてきた京浜急行電鉄。だが、運行管理の中核を担う「運転主任」への負荷は大きく、さらに職人気質な上下関係や特殊な昇格制度などにより、運転主任間でのパワハラも深刻化している。過度のストレスやプレッシャーはヒューマンエラーを誘発しかねず、早急な改善が求められる。(鉄道ジャーナリスト 枝久保達也)

国土交通省が絶賛した
「人間優位」の運行管理

 2019年9月に発生した踏切事故以降、マンパワーに過度に依存した列車運行が曲がり角を迎えつつある京浜急行電鉄(京急)。しかし数年前まで「現場力」に支えられた「超人的」な列車運行は称賛されてきた。

 例えば2015年10月に京急は、国土交通省が鉄道分野の優れた取り組みを表彰する「日本鉄道賞」において、「きわめて利便性の高い高頻度・高速運転や相互直通サービス、そして安全性を確保しつつ、列車の遅延を最小限に抑制したわが国で最高水準の安定輸送」を実現したとして特別賞を受賞している。

 選考理由には「ハード面の改善と工夫を長期にわたって営々と積み重ねてきたことに加え、高度なプロフェッショナリズムへのゆるぎない信念に基づいた『人間優位』の運行管理思想を社内の隅々まで徹底してきた、同社の長年の努力のたまもの」と書かれており、まさに絶賛である。

 この「人間優位」の運行管理の中核を担うのが「運転主任」だ。他の鉄道事業者では定年まで運転士として働き続ける人も珍しくないが、京急の運転士は原則として40代で「卒業」し、運転主任に転じるという独特なキャリアパスを取っている。

 運転主任は品川、京急川崎、神奈川新町、金沢文庫など主要8駅の信号所で、信号機や分岐器(ポイント)を手動で切り替えており、最も複雑な金沢文庫では1日5000~7000回もの操作を行っている。

 他の鉄道事業者はあらかじめプログラムされた通りにポイントや信号を切り替える「PRC(自動進路制御装置)」を全面的に導入しているため、京急のスタイルは独特だ(ただし京急も前記8駅以外はPRCで制御している)。