「共領域」を具現化する「コレクティブ・インパクト」Photo:photo AC

価値観が激しく変化し、知識が膨大に蓄積された世界では、「バックキャスティング」に分がある。目標はきっと達成できる、そう考えて挑戦する方が勝つ確率が高いのである。もう一つの重要な視点は「共領域」である。バックキャスティング思考に基づき必要な知や機能を構造化しようとしても、縦割り組織がそれを阻む。細分化された組織や個人をつなぐ紐帯が必要である。三菱総合研究所編著『「共領域」からの新・戦略』では、多様な個人や組織のつながりによって価値を創出する「共領域」を形成し、「コレクティブ・インパクト」を実現することが重要であると提言。「共領域」という言葉には、これからの日本に必要な新しい紐帯という意味を託している。

複合的な取り組みにより社会課題を解決する

 先進国における課題は、前世紀のような経済成長一辺倒から、徐々に地球環境や人間にとって持続可能な成長へとシフトしてきました。しかも、経済のグローバリゼーションや技術革新によって人々の交流や社会構造は複雑化し、課題の解決には多面的な取り組みが不可欠となってきています。

 もはや一つのプロジェクトを遂行させるだけでは課題の解消にはつながらないため、さまざまな関係者が同時並行で取り組む必要が出てきました。その解決の担い手も、既存の大企業から、スタートアップやNPOなど新興勢力へと移りつつあります。

 その一因は、AI・ロボット、インターネット技術の進展により、新しい機能やサービスを開発するために必要な期間やコストが大幅に縮減されたことにあります。これが、大企業とは異なり次々と新しいチャレンジをすることが可能で経営上の小回りが利くスタートアップ企業が台頭してきた一つの理由なのです。小さくても斬新な手法をうまく組み合わせることが、大きな社会課題の解決にも結びついていく。すなわち、コストもリスクも少ないスモールスタートを起点としながらも、こうした取り組みが複合的にバンドルされることが大きな社会課題の解決につながるのです。

 このような複合的な取り組みにより社会課題を解決するというこの考え方を一般に「コレクティブ・インパクト」といいますが、本書ではこのコレクティブ・インパクトという概念をもう少し拡張して捉えます。コレクティブ・インパクトを実現する主体、すなわち「個々の組織」は、異なるセクターの法人(たとえば自治体と企業)でもよいし、一つの法人内の組織(たとえばある企業内の異なる部署など)であっても構いません。複数組織をまたがる取り組みであればコレクティブ・インパクトになりうると考えます。

 翻ってコレクティブ・インパクトのコンセプトが提唱していることは、異なる価値観や目的を持つもの同士が共通の課題認識を共有することにより、新たに同一の目的・方向性に向かって進むことで、結果として大きなインパクトを社会にもたらすことができる、というものです。

 これは「共領域」の考え方そのものです。また、特に大企業で新規事業を創出する場合には、既存事業とのカニバリゼーションやディスラプションが往々にして起こりがちです。単一組織内でもコレクティブ・インパクトの考え方を援用する実務的なメリットは極めて大きいと考えられます。