故に、アベノミクスへの忖度で、国内総生産(GDP)拡大のために改ざんしたのではないかという疑いが出てくる。

 政府統計をめぐっては18年12月に基幹統計の一つである厚生労働省の「毎月勤労統計」で不正が発覚し、野党は国会で「アベノミクスのためのデータのかさ上げ」と批判した。ただ、ここでの不正な統計手法は04年から始まっていた。

 一方で、いわゆる「森友問題」をめぐる財務省の公文書改ざん事件もあり、安倍政権の意向を忖度して公的な文書やデータが改ざんされる可能性があったのではないか、との政府や行政、そして官僚機構への不信感は残っている。「安倍政権の発足直後の霞が関はまだ様子見で、政権への忖度が過度に働く雰囲気ではなかったのではないか」(国交省関係者)との見方もある。

 しかし、今回明らかになった国交省の問題は、GDPや建設投資額のかさ上げを意図した意図的な改竄(かいざん)が目的であったと考えれば、その手法はあまりに杜撰(ずさん)と言わざるを得ない。

基幹統計の一斉点検を行う中で
国交省は書き換えを続けていた

 業者が報告するデータは国交省が直接集めるのではなく、都道府県が調査票を集めて同省に届けていた。朝日新聞は、建設業者が鉛筆で記入した数値を消しゴムで消し、数字を足し上げて鉛筆で書き直すよう都道府県に指示した国の文書を入手したと、その写真と共に報じている。外部に発覚しないよう密かに不正を働くのであれば、不正の手法を指南する文書を作って、わざわざ全国47都道府県にばらまくような真似をするだろうか。国交省によると、都道府県向けの説明会も開催していたという。

 毎月勤労統計の問題発覚を受けて政府は19年、同様の不正がないか全ての基幹統計について一斉点検を行った。そんな中で国交省は今年3月まで書き換えを続けていた。

 基幹統計での故意の改竄は統計法で禁じられ、違反した場合は6カ月以上の懲役または50万円以下の罰金という罰則が定められている。毎月勤労統計の不正によって厚労省が国会や世論の猛批判を浴び、安倍政権の看板政策であるアベノミクスの成果が問われる事態となった後もなお、国交省が意図的な書き換えを続けていたことは、あまりに大胆に過ぎる。

 12月15日の衆議院予算委員会では、斉藤鉄夫国交大臣が「国土交通省所管の統計において、 こうした指摘があったことは大変遺憾であり、お詫びを申し上げます」と謝罪。岸田文雄首相は16日の参議院予算委員会で、元検事らによる第三者委員会を設置し、1カ月以内に報告させる考えを示した。

 政府は、GDPの算出への影響は軽微だとしている。しかし、たとえ軽微であっても、こうした統計はGDPの算出以外にも幅広く用いられるし、行政への信頼を失墜させる行為である。

 職員が罰則のリスクを冒してまで不正に走るほどの事情があったのか。あるいは、まさかの凡ミスか。第三者委員会はどこまで真相に迫れるだろうか。