にもかかわらず、那須高原辺りまでの登りが、かくも険しいとは想像すらしていなかった。激しい雨の中、エアコンを止めればウインドウが曇って視界が効かなくなる。見る見るバッテリー残量が食われていくのは心細いどころか、笑うしかなかった。110㎞先の上河内SAで最後の充電をするつもりだったのに、ほぼ中間地点の那須高原SA手前で、バッテリー残量が3割を切った。下り坂が始まるかもしれないが、そんな保証はない。というわけで、那須高原SAで再度の30分ワンショット。あと200㎞近い道のりを残して、バッテリーが6割弱とは、悪夢でしかない。

 だが、東北道のもっとも険しいパートは終わったか、さらに走り続け90㎞弱の都賀西方SAでバッテリーは3割以上残っていた。佐野より都心に近いところで充電待ちに遭うよりマシと思い、そのまま都賀西方SAで最後の充電をした。家まで距離的にも110㎞強なので、6割近くあればもつはずだ。

 とはいえ、埼玉辺りから深夜過ぎだというのに車が増え、気が気でなかった。三郷ICを通過時にバッテリー残量は2割。中央環状線からC2という起伏の多いルートでBモードを多用しまくれば、何とかなるだろうとも思い、実際にそうやって家に無事着いた。往路は4回チャージしてバッテリーを8割近くにして眠れたが、復路は同じく4回チャージで残量は1割にも満たず、翌朝速攻で日産ディーラーに行く羽目になった。

 結論として、せめてバッテリーが100%近い状態でスタートできたら、ファーストレグで到達できる充電ステーションの選択肢が広がるはずだ。また急速充電器の規格が90kW以上の大出力で、30分ワンショットで距離にして200㎞弱をつぎ足すことが可能になれば、充電の頻度もステーションの空き待ちも違ってくるだろう。

ボディサイズは全長4095×全幅1745×全高1465mm(GT)、価格はアリュールが398万9000円、GTが435万8000円となるボディサイズは全長4095×全幅1745×全高1465mm(GT)、価格はアリュールが398万9000円、GTが435万8000円となる

コンパクトEVは
シティコミューターに

コンパクトEVはシティコミューターに

 でも、こうした結果でもって「EVはマンション住まいや都市間移動には向いていない」とは結論づけられない。欧州Bセグメント格のハッチバックはやはりシティコミューター的な使われ方が前提で、乗り方として都市間移動が頻繁になるのはそのひとつ上、Cセグメントからなのだ。だからCセグのバッテリー容量と車両重量のバランスは難しく、車種的にもまだ日本に導入されていないボルボC40、シトロエンe-C4を除けば、VWの先代E-ゴルフやマツダMX-30、レクサスUX300eぐらいしか思い当たらない。むしろBセグより小さな、軽自動車まで含む街乗り中心の車格こそ、実用途的にもコスト的にも早急にコモディティEV化される可能性はある。

 だからこそ今のところ、75kWh容量以上の大きなバッテリーを積めるような、Dセグ以上をメインにするEVメーカーは、自前で高規格の急速充電ネットワークを拡げられるプレミアムブランドに限られている。公共のインフラ頼りでは、いつまで経っても満足のいくサービスが得られず、誰がそのサービスを提供するのか? という話だからだ。よってテスラがスーパーチャージャーを展開し、ポルシェ タイカンやアウディe-tron GTを擁するVWグループが150kWh出力の急速充電ステーションの整備に着手しているのは、理に適っている。

 プジョー e-208のお膝元たるフランスでは来年から、1.8トン以上の新車については、超過1㎏ごとに10ユーロを徴収する重量税が始まる。ただしEVやPHEVは完全に対象外で、他車より並外れて重くてICEで走る比重が高くCO2排出量の大きいクルマ、つまりMHEVのSUVを狙い撃ちで制限する措置だ。いわば振動の少ないEVで、予定外の待ち時間もなくグランドツーリングをこなせるのは、いまだ「新しいラグジュアリー」といえる。だからこそ出力規格や充電インフラの整備は、競争のただ中にあるのだ。

文・写真=南陽一浩 編集=iconic

マンション住まいでEVを生活の足にしたら、EVの課題があれこれ見えてきた