社長就任の2年後に
起きた経営の危機

 そもそも、私は入社以来、現場経験というのがほとんどありません。

 前社長の櫻田厚会長は、創業者のおいであるだけではなく、創業時からモスバーガーのアルバイトをしたり、1号店の店長として目の前に競合店ができたその月に最高月商を上げた話があるほど、まさに現場を熟知した経営者です。

 一方、私は法務部門が長く、その後も店舗開発、営業企画などを行ってきました。その後、中国・四国・九州・沖縄を担当する営業部長となったのですが、九州の加盟店オーナー会に行った際、「新しい営業部長は、店長経験もないが大丈夫なのか」という声が耳に入ってきました。

 加盟店の不安は当然です。

 ですから、オーナーの皆さんの前で、「皆さんご存じのとおり、私は店長経験もない営業部長です。そのため、分からないことは素直に聞きますから、ぜひ教えてください」と言いました。

 そして、「その代わり、聞いた以上は絶対覚えるようにします」と約束しました。それ以来、100ページぐらいのノートに聞いたことなどを必ずメモし、覚えるようにしました。

 たとえば、当社では店舗での接客や商品の出来、店内の清潔度などを審査する制度があるのですが、現場経験がないから審査のポイントが分からなかったりします。そういう時は同行した加盟店オーナーが、何をポイントに審査しているのかなど、一生懸命にメモします。

 こういうことを地道に積み重ねていくことは、自分の知見が増えるだけではなく、加盟店オーナーと親しくもなれますし、信頼を得ることにもつながったのではないかと思っています。

 そして、社長就任から2年後、当社は大きな危機を迎えました。

 それが2018年8月に起きた食中毒事故です。

 長野県のモスバーガーの店舗を利用されたお客様で食中毒の症状がみられるとの指摘を受け、県内2店舗で行政処分を受けました。