米国に続き日本でも
リスキリングがトレンドに

 情報処理推進機構(IPA)が今年の夏に米国企業369社、日本企業553社に行った調査によると、米国企業の4割弱は全社員にリスキリングを実施し、選抜社員への実施企業を含めると7割を超える企業が社員の学び直しに力を入れています。同じ調査で日本企業を見ると全社員に再教育をしている企業は1割以下、選抜社員の学び直しを含めても20%台前半という状態です。

 経営コンサルタントとしての経験でいえば、それ以外のダメな会社の典型は以下のような状況です。

(1)社員研修予算の過半数は新入社員研修に充てている
(2)一般の正社員の研修は、「法令の変更」「社内新システムの使い方」など業務に直結するものばかり
(3)「再教育」という言葉は「リストラ候補組に入った」ことを暗に意味する

 こんな感じでしょうか?

 一方で、ヤフー以外にもリスキリングに力を入れる企業が出てきたというニュースを多く目にするようにもなってきました。メディアで報道された例を中心にいくつか事例を紹介したいと思います。

 キヤノンでは、3年前からエンジニアが職場を離れて別のスキルを学ぶ仕組みを始めています。社内に研修施設と独自のカリキュラムを設置して、給料も支払われる状況で5カ月間研修に専念できる環境で、じっくりと新しいスキルを学び直します。

 たとえばカメラのレンズを設計していた人やプリンターの組み立てを担当していた人がソフトウエア開発を学んだり、成長性の高い医療機器開発を扱う部門へと職場移動したりといった形で、会社にとっても個人にとってもウィンウィンの流れをつくっています。

 KDDIではDX人材を増やすために、社員を選抜して育成します。DXの業務知識を持つDX人材が2000人ほどであるという現状を把握した上で、学び直しを通じてこれを2年で4000人に倍増させる計画を発表しています。

 選抜された社員は業務時間の2割を学び直しに振り向けます。研修も座学だけではなくAI開発のOJTを加えて実践的に行うといいます。

 これまでの日本企業の学び直しはどちらかというとマネジメント候補人材の育成の側面、それもOJTを重視する傾向が強かったかもしれません。総合商社の社員が若い頃から出資先の企業に派遣されて、さまざまな業種、さまざまなビジネスモデルの企業経営を実地で学ぶようなイメージです。

 一方で、エンジニアは専門職として捉えられ、機械設計や構造強度分析などそれぞれの専門性を磨くか、そこから一歩踏み出た程度の新技術の取得に力を入れるような育成が中心的だったと思います。

 その理系の領域で今、全く新しい分野の学び直しに力を入れる企業が増え始めている。これが、2022年以降の日本企業にとって新しいトレンドになりそうだというのが、今回の記事の主眼なのです。

 さて、これから人材の学び直しに力を入れる企業にとっては、社員のスキルが上がることで会社を辞めて転職してしまうのではないかというリスクが気になるかもしれません。人材育成先進企業はこの人材流出をどう考えているのでしょうか?