メタバースを訳すなら
「超越空間」と言うべきだ

 メタバース(Metaverse)はメタ(Meta:超越した、何にでもなれるといった意味をもつギリシャ語の接頭辞)と、ユニバース(Universe:宇宙、森羅万象、全世界などの意味)を組み合わせた造語だ。メタバースとは、これまでの常識を超越した世界を、ネットワーク上のデジタル空間で実現するための多種多様な理論(発想)、技術などを言う。

 わが国では「仮想空間」などと訳されることが多いが、そのニュアンスはメタバースの発展の可能性を十分に捉えてはいない。しいて日本語に訳すとすれば、「超越空間」と言うべきだ。イメージとしては、ひとたびその世界に入ると、新しい発想や満足感が次々に得られるデジタル空間を思い浮かべるとよい。

 メタバースのコンセプトは、ごく最近生み出されたわけではない。その起源の一つと考えられる技術が仮想現実(VR)だ。1960年代に米国では映画視聴を目的に「センソラマ」と呼ばれるごく初期型のVRシステムが開発され、映像の視聴に合わせて振動や香りを体験する仕組みが考案された。その後、米国では拡張現実(AR)に関する技術開発が進んだ。さらに90年代に入るとインターネット通信が普及し、個々の端末をつなぐことによってネットワーク空間が構築され、SNSや動画ストリーミングなどの新しい需要が生み出された。

 インターネット社会では、私たちは常時ではなく、必要に応じてパソコンやITデバイスを操作し、ネット上で情報を検索したり、会議を行ったりする。それに対して、メタバース社会では、デジタル空間における活動と、現実社会での行動がリアルタイムでつながるようになると考えられている。さらに、デジタル空間では人々はアバター(分身、化身)として活動する。