「メタバース・デバイデッド」
デジタル格差社会の到来

 今後の展開として注目されるのは、メタバース市場に参入できる企業と、それが難しい企業の差が鮮明になる「メタバース・デバイデッド」社会の到来だ。

 90年代に米国でインターネット革命が起き、その後は世界各国に情報通信技術(ICT)が普及した。その結果、インターネットを使いこなせる人や企業と、そうではない経済主体の差が広がる「インターネット・デバイデッド」、あるいは「デジタル格差」と呼ばれる状況が出現した。

 メタバース社会を目指す取り組みの加速によって企業間の競争は激化し、対応力のある企業とない企業の成長力格差は広がるだろう。デジタル空間上でメタバースに関するサービスを提供したり、新しいITデバイスを生み出したりする力を持つ企業は、中長期的に高い成長を実現する可能性がある。

 反対に、自力でメタバースに必要な機器やサービスの創出が難しい企業の場合、メタバース企業の傘下に入らざるを得なくなるケースが増えるだろう。さらに言えば、メタバースに対応できないと長期存続が難しくなり、最終的には淘汰される企業が増えるだろう。メタバースに取り組む企業の増加とともに、世界のIT業界などで再編が進む展開が予想される。

 メタバースを成長のチャンスと考えるか、自社に関係のない変化と考えるか、経営トップの意思決定の重要性はかつてないほどに高まっている。特に、デジタル化への遅れが深刻なわが国にとって、メタバースのインパクトは非常に大きい。

 ポイントは、企業のトップが積極的に新しい発想の実現を目指して変化に対応しようとするか、それとも過去の成功体験に固執するかだ。同じことは個人にも当てはまる。世界経済の最先端分野の理論を学び、実践を目指すことができるか否かが、中長期的な個々人の生き方に無視できない影響を与えるだろう。

参照1
Yee, N., & Bailenson, J. (2007). The proteus effect: The effect of transformed self-representatioin on behavior. Human Communication Research, 33, 271?290.
参照2
Ratan, R., Miller, D. B., & Bailenson, J. N. (2021). Facial Appearance Dissatisfaction Explains Differences in Zoom Fatigue. Cyberpsychology, Behavior, and Social Networking.