「起算して1年6カ月」から
「通算して1年6カ月」に変わる

 これまで、一つの病気やケガに関する傷病手当金の支給期間は、支給開始日から「起算して1年6カ月」だった。つまり、暦の上で1年6カ月たつと、実際の給付日数に関係なく、支給が打ち切られていた。

 前述のように、傷病手当金の支給要件には、「勤務先から給与が支払われていないこと」というルールがある。傷病手当金の給付を受けられるのは、これまで支給開始日から1年6カ月だったが、その間に仕事をして給与をもらっている日は、傷病手当金は不支給になる。

 たとえば、病気になって、手術や療養のために入退院を繰り返して、2020年4月1日~6月30日、11月1日~2021年1月31日、8月1日~10月31日、というように、3回に分けて合計275日休んだケースで考えてみよう。

 2020年4月1日~3日は待期期間なので、傷病手当金がもらえるようになるのは4月4日から。これまでは、「起算して1年6カ月」になると給付が打ち切られていたので、このケースで傷病手当金が支給されるのは2021年10月3日までに、実際に仕事を休んだ日数のみだ。2021年10月4日以降は給付の対象とならず、支給日の合計は247日分だけだった。

 だが、今回の法改正では、支給期間が「通算して1年6カ月」に変更された。つまり、実質的に1年6カ月分支給されることになったのだ。そのため、上のケースでは、途中で傷病手当金が打ち切られることはない。待期期間の3日分を除く、272日分がすべて支給される。その後も療養が続く場合は、1年6カ月分、つまり547日分がまるまる支給されることになり、これまでよりも手厚い給付が受けられるようになったのだ。

 法律の運用は2022年1月1日からだが、「施行日の前日において、支給を始めた日から起算して1年6カ月を経過していない傷病手当金について適用」するという経過措置が設けられている。具体的には、支給開始日が2020年7月2日以降の場合は、改正後の規定が適用され、通算で1年6カ月分を支給してもらえるようになっている。つまり、2022年1月1日時点で、傷病手当金をもらっている人は、新しい制度が適用されるということだ。

 こうした法改正の背景にあるのが、就労可能年齢で悪性新生物(がん)になる人の増加だ。がん患者を中心に、治療と仕事の両立ができる体制作りを求める声が上がっていたからだ。