コロナ禍のさまざまな健康保険の特例措置の中に「加入している健康保険の種別を問わず、コロナ療養者に傷病手当金を支給する」がある。実はこれは、誕生後60周年を迎える国民皆保険制度史上、「快挙」とも言えることなのだ。連載『医療費の裏ワザと落とし穴』の第233回では、そもそも、社会保険と国民健康保険の給付格差はどうして生まれたのか。そして、それはコロナ禍を経て今後どのように変えるべきなのか、考えてみよう。(フリーライター 早川幸子)
国民皆保険60周年
コロナ禍で露見した制度の矛盾
2021年も、あと1週間ほどで終わろうとしている。昨年に引き続き、今年も、医療に関する話題は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に埋め尽くされた1年となった。
12月20日現在、日本のCOVID-19の新規感染者数は152人、重症者数は28人。ワクチンの接種率の高まりとともに、感染は縮小してきている。だが、新たな変異株「オミクロン株」の出現により、再び、感染が拡大する恐れもあり、完全収束には程遠い。COVID-19の感染拡大以降、打ち出されてきた公的な医療保険(健康保険)の特例措置は、来年も当面の間は続くはずだ。
この特例措置のなかで、画期的といえるのが、国民健康保険に加入している被用者(企業や団体に雇用されて働く労働者)に対する傷病手当金の特例給付だ。というのも、実は制度設立当初からの懸案事項だった被用者保険(社会保険)と国民健康保険の給付格差が、100年に一度のパンデミックによって埋められることになった、という“快挙”があったからだ。
傷病手当金は、健康保険の給付の一つで、加入者が病気やケガをして仕事を休んだ場合に給付を受けられる所得保障だ。1日当たりの給付額は、平均的な日給の3分の2。療養のために3日連続で仕事を休んだあとの4日目から、最大1年6カ月間の給付が受けられる(2022年1月から給付期間の要件が見直される)。
だが、この傷病手当金には大きな格差問題があった。というのも、企業に正社員として雇用されている会社員や公務員向けの被用者保険は、傷病手当金が法定給付だが、非正規雇用者や自営業者向けの国民健康保険は、傷病手当金が任意給付だからだ。都道府県単位の国民健康保険で、これまで給付を行っているところはない。
そのため、実質的に傷病手当金は、被用者保険に加入している会社員や公務員だけの保障となっていた。同じように企業や団体に雇用されていても、非正規雇用の短時間労働者などは、事業所の規模や労働時間などの要件によって、被用者保険への加入が阻まれ、国民健康保険に加入するしかなかったからだ。
こうした格差は、1961年に国民皆保険の実現当初から認識されていたが、財源論から長く放置されていた。
だが、COVID-19によって、国民健康保険に加入する被用者の困窮が一気に表面化した。そこで、COVID-19の療養に関しては、国が予算をつけることで、国保加入の被用者も同じ内容の給付をすることになったのだ。
正規雇用と非正規雇用は、「雇用されて働く労働者」という意味では同じ立ち位置だ。それなのに、なぜ、同じ保険制度に加入させずに、分断されてきたのだろうか。くしくも今年は、日本の医療保険制度の根幹ともいえる国民皆保険が実現してから60周年に当たっている。皆保険制度が実現するまでの歴史をたどりながら、被用者間の給付格差解消のための方策を探ってみたい。
●国保の加入者数は、現在当初の対象だった農林水産事業者、自営業者よりも非正規雇用者が上回っている