健康保険法制定から100年に
給付の充実が図られた意義

 折しも、国は、少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少をカバーし、育児や介護との両立など、働く人のニーズの多様化を促すために、2018年7月に「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律(働き方改革関連法)」を公布し、順次施行を始めていた。

 この一環として、なんらかの病気やケガを抱えながら働く人が、治療と仕事の両立ができるようにする体制を強化するために、傷病手当金の支給要件を見直すことが検討されてきた。そして、2021年6月に、「全世代対応型の社会保険制度を構築するための健康保険法等の一部を改正する法律(改正健康保険法)」が、参議院本会議で成立し、この1月1日から施行されることになったのだ。

 もちろん、今回の傷病手当金の見直しは、がんに限らず、すべての病気やケガの治療をしている人が対象だ。だが、その陰には、制度の見直しを粘り強く訴えかけてきたがん患者たちの活動があったことは記憶にとどめておきたい。

 そもそも、労働者のための健康保険は、日本が近代国家への道を模索していた1922年(大正11年)に、近代産業の担い手である労働者の生活を安定させることを目的に制定されたものだ。

 その後、関東大震災が発生し、実際のスタートは5年後の1927年(昭和2年)まで延ばされたが、労働者が病気やケガを理由に労働市場からドロップアウトしないように、療養の給付(医療費)とともに、療養中の所得を保障するための傷病手当金も、当初から健康保険の重要な給付として位置づけられていた。

 健康保険法が制定されてから100年目、2022年の元日に、健康保険の本来の意味に立ち返るような労働者を支える傷病手当金の給付が充実したことには、感慨深い。

 いまだ、新型コロナウイルス感染症は終息しておらず、不安なことも多い世の中だが、いざという時には傷病手当金をはじめとした社会保障というセーフティーネットがあることを覚えておきたい。そして、誰一人として、その網の目からこぼれることなく、必要な人に必要な制度が届く一年になることを願いたい。