結論から言うと、理事の就任は義務ではなく、拒否することができる。

 管理組合については、「建物の区分所有等に関する法律」(区分所有法)や「マンション標準管理規約」(標準管理規約)でさまざまな規定が設けられている。

 そのうち、「管理者」(「理事長」がこれに当たる)や「役員」については、区分所有法の第3条「集会を開き、規約を定め、及び管理者を置くことができる」(一部抜粋)、第25条第1項「区分所有者は、規約に別段の定めがない限り集会の決議によって、管理者を選任し、又は解任することができる」や、標準管理規約の第35条第2項「理事及び監事は、総会の決議によって、組合員のうちから選任し、又は解任する」、同条第3項「理事長、副理事長及び会計担当理事は、理事会の決議によって、理事のうちから選任し、又は解任する」と定められている。

 また、標準管理規約の第38条から第41条には、それぞれ理事長、副理事長、理事、監事の役割や業務内容について規定されているが、就任についての義務は定められていない。つまり、たとえ輪番制で理事の順番が回ってきても、本人の意思に反して理事への就任を強制することはできないのだ。

 そうはいっても、理事就任の辞退者が続出してしまっては、管理組合の運営が成り立たなくなる。そうした事態を避けるために、マンションの管理規約に理事就任を義務化し、強制的に理事になるような規定を設けてはどうか、と思う方もいるかもしれない。

 しかし、本人の意思に反して理事就任を強制することは、民法第90条の「公序良俗」や第91条の「任意規定と異なる意思表示」に抵触するため、たとえ管理規約にそのような規定を設けても、実際には無効となってしまうのだ。

ずさんな理事会運営が招いた?
理事長による修繕積立金横領事件

 法的にも理事就任は義務ではないと知って、「次回は理事の順番が回ってくるが、辞退してしまおう」とさっそく思った方もいるのではないだろうか。正当な辞退理由があるならばそれも良いだろうが、「理事会には関心もないし、自分一人くらい理事にならなくても、次の人がうまくやってくれるだろう」というような考えなら、安易に辞退を決めてしまうのはやめたほうがいい。

 ここで、これまで私が見てきた中で、あまりにもずさんな理事会運営を行ってきたことで、大変な目に遭ったマンションの例を紹介しよう。