そこは首都圏にある築30年ほどの約40世帯のマンションで、30年の間に修繕積立金の月額がおよそ8.5倍になった上、その長年積み立ててきた修繕積立金がごっそり消えてしまった……という事例である。

 私に相談を持ちかけてきたのは、7年前にそのマンションで75平方メートルの居室を購入した方だった。マンションの修繕積立金は、新築当時は1平方メートル当たりの単価が70円だったものが、年を重ねるごとに150円→350円→600円と大きく値上がりしており、その方は現在、管理費1万5000円と修繕積立金4万5000円(600円×75平方メートル)の合計6万円を毎月支払っているという。

 そのマンションは駅にも近い好立地で、中古マンション市場が活況を呈している現在では、普通なら高値が付く物件なのだが、管理費と修繕積立金の支払いが月額6万円という高額負担のために、資産価値はガタ落ちで、とても売却できそうにないと相談者は困り果てていた。

 しかも、問題はそれだけではなかった。築30年を迎え、設備更新や大規模修繕工事を考えるタイミングになったため、修繕積立金の口座の残高を確認したところ、積み立てられているはずの修繕積立金がなくなっていた、というのだ。

 修繕積立金が消えた原因は理事長にあった。自身が経営する会社の資金繰りが厳しくなり、修繕積立金に手を付けてしまったのである。さらに、使い込みが発覚する直前に、理事長は自己破産を申請し、会社を整理してしまった。現在は刑事事件として立件され、裁判中だというが、管理組合側としては、使い込まれた修繕積立金を回収することは難しいだろうということであった。

 使い込んだ理事長が悪いのは当然だが、修繕積立金の大幅な値上げも含め、なぜこんな事態になってしまったのかといえば、それは全て、このマンションの区分所有者が管理組合の組合員としての意識が希薄だったことに起因する。

 大半の組合員がマンション管理に関心がなく、理事会も長年適当な運営を続けてきていた。理事はみな輪番制で仕方なく就任したという意識で、理事会は年に数回ほどしか開催されず、理事の出席率も常に低かった。マンション管理も管理会社にお任せの状態だったという。

 そんな中で、修繕積立金を使い込んだ件の人物は、十数年にわたって理事長を務めてきた。他の理事や監事はやる気がないのだから、理事会の運営は理事長のやりたい放題となっていた。管理会社には良い顔をして、どんなに高額な見積もりでも承認し、いわば管理会社の言いなりで修繕工事を繰り返していたそうだ。

 そんなふうに無計画なお金の使い方をしていたら、修繕積立金が不足するのは当たり前だ。その結果、修繕積立金が足りなくなったとして値上げを繰り返し、結果、新築当時の8.5倍という金額に膨れ上がってしまった。そして、揚げ句の果てに、理事長が修繕積立金を横領するという最悪の事態が起こってしまったのである。

 7年前に物件を購入した相談者は、こうした事態になったことをとても悔しがっていたが、時すでに遅しと言うしかない。現在では、この相談者が理事となって、理事会活動を活発化させ、まだまだ意識の低い組合員の意識向上を目指して奔走しているところだ。