理事就任は「義務」ではなく
「権利」と思うべし

 このマンションの話はまれなケースかもしれないが、このように理事会が機能していないマンションで起こり得るさまざまな問題が、今後は大きな社会問題に発展すると私は予想している。大げさかもしれないが、南海トラフ巨大地震や首都直下地震と同じくらいの確率で襲ってくる恐ろしい問題だと思っているのだ。

 実際、リゾートマンションや投資型マンションなどでは、既にこれと似たような問題がいくつも起きている。それらも結局は、組合員たちの管理組合への意識の希薄さが直接的な原因だと考えられる。

 そもそも、誰もこんな問題を抱えたマンションに住みたいと思わないだろうし、ひいてはそれがマンションの資産価値の下落にもつながることになる。よく「マンションは管理を買え」という言葉が使われるが、それは管理会社側の問題だけでなく、組合員側の問題でもあることを忘れてはならない。

 マンションの居室を購入し、組合員になったからには、「自分は快適に生活ができればそれで良いので、マンションの管理や管理組合の活動は誰かに任せてしまおう」というお客様感覚を捨て、管理組合の活動はマンション(=自分の財産)のためという意識を持つことが何より大切だ。

 冒頭で、「理事への就任は義務ではない」という話をしたが、これから理事になる方にはぜひ「理事への就任は権利である」という考え方をしていただきたいと思う。マンションの設備や環境を自分たちで守り、資産価値を向上させるために、直接活動できる好機だと思ってほしいのだ。

 理事会では、「こんなマンションを目指そう」「こんな管理組合にしていこう」という目標を掲げ、積極的に取り組むことが望ましい。コロナ禍の昨今ならば、むしろ今まで以上に理事会が細やかに活動する必要性が感じられる。

 これまでに多くの理事の方と出会う中で、「理事の仕事はやりがいがあった」「自分のマンションをよくするという意識が高まり、勉強にもなった」「仕事と違ってヒエラルキーがなく、自分の意見が尊重されたことがうれしかった」「思っていた以上に楽しかった」などという感想を聞いており、大半の方が「理事を経験して良かった」と言っている。

 そして、そうした理事経験者たちが増えていくほど、管理組合も成熟していき、管理会社とも対等で、適切な付き合い方ができるようになっていく。だから、マンションの管理組合やコミュニティといった面では、中古マンションのほうが質の高いところが多いといえるのだ。