さて、三が日にケンカをしてはならないというのも、そんな祝いの行事であり、次の新しい一年の運勢が決まる大切な正月に、悪い運気を刷りこみたくないという考えから生まれたものだ。まさに縁起かつぎの代表なのである。

正月に餅を食べない地域に残された、
こわすぎる伝説

 正月に餅を食べるのは日本人全体に共通した“儀礼”かといえば、そうではない。各地には正月に「餅を搗くこと」「餅を食べること」が禁忌とされているところが数多くみられるのだ。「餅なし正月」の名があるこの禁忌の理由はさまざまだが、過去の事件や伝説に絡んで、というものが多い。

「先祖が落人であったり、貧しかったため、正月に餅を搗くことがかなわなかった。その先祖を慮って餅を搗かない」

「餅を搗く時期に敵に襲われ、餅なし正月を過ごした先祖を思って搗かない」

「先祖が犯した罪科による恨みで、餅に血が混じるなどの異変が起こるため搗かない」

「餅を搗いているときに貴人や鬼がきて餅を所望したが断った」

 地域によってディテールは違うが、事件や伝説の骨格はおおよそこのようなものである。禁忌を破ると、人が死ぬ、火事が起きる、餅が燃える、餅が赤くなる…などの現象が起きるとされている。

 民俗学者の坪井洋文は『イモと日本人』のなかで、餅を搗かない・食べない地域をあげている。

 それによれば、山形県、栃木県、群馬県、埼玉県、東京都、愛知県、和歌山県、大阪府、島根県、愛媛県、神奈川県、静岡県、長崎県、岡山県…と、この禁忌が残る地域はほぼ全国に点在している。

 また、戦前まで餅なし正月の禁忌がつづいていた、愛媛県加茂地区の藤之石にはこんな伝説が語られている。