前述の宇野医師は言う。

「腸内環境という言葉を聞いたことがあると思います。善玉菌と悪玉菌がいて、悪玉菌が増えるとおなかを壊す。過敏性腸症候群もそうした菌が原因だと思われていたのです」

 おなかの調子が悪いのは腸にすむ細菌のフローラのバランスが崩れているため。だから乳酸菌やビフィズス菌などの善玉菌を増やしたり、食品で取ろうというのがプロバイオティクスの考え方だ。

 しかし、2020年、米国消化器病学会は過敏性腸症候群、潰瘍性大腸炎、クローン病でのプロバイオティクスの使用について『推奨しない』と決定した。

 乳酸菌などがこれらの病気を引き起こすらしいのだ。

「善玉菌の餌になるイヌリンやオリゴ糖、ヨーグルト(乳糖)、果糖の豊富な食事が“おなかの調子を整える”と思われていたわけです。これらは善玉菌によって大腸で発酵するので“発酵性食品”ともいわれていますが、10年ほど前からこれらの摂取によって過敏性腸症候群が引き起こされることがわかってきたのです」

 ビフィズス菌と乳酸菌といえば善玉菌の代表で、ヨーグルトで胃腸は健康になるのではなかったのか?

 善玉菌、悪玉菌と名付けたのは農学博士の光岡知足氏だ。1953年に成人のビフィズス菌を発見、1964年にヒトのビフィズス菌を分離することに成功し、1969年より善玉菌と悪玉菌による腸内環境のバランス=腸内フローラが健康を維持しているという仮説を発表、世間に広く知られていく。

 ヨーグルトが健康にいい、腸内細菌の分布が健康に関係するといったことはこの頃から常識になっていく。光岡氏は機能性食品を提唱、オリゴ糖でビフィズス菌が増えることを発見し、オリゴ糖を含む飲料が機能性食品として認可され始めるのだが……しかしそう単純な話ではなかったのだ。